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原作 芥川龍之介 

 

  

 花咲き乱れ、小鳥が喜びさえずり、甘いかおりがどこからともなくただよい、澄みきった小川の水が

サラサラと歌い踊り・・・・さわやかな風が優しく頬をなぜながら語りかけ・・・ずーっとずーっと昔の地球にあった景色が、ここ・・・神界にはあります。

 一人のやじ馬神がフッと気まぐれに池の中をのぞききこみました。

この池から、下界(人間の住む所)が見えます。・・・・そして驚きました。

 久し振り・・・数百年ぶりに覗き込んだ人間世界は、何やら灰色っぽくくすんだ空気にさえぎられて、

時々く風が、空気を吹き払わなければ、のぞき見る事が出来なくなっていたからです。

 やじ馬神は急いで同僚にこの様子を伝えました。

 同僚神は又同僚神に伝え・・・神々の間で下界の様子は話題になりました。

そこへ上司神が通りかかり、やじ馬神達の話にちょっと耳をかたむけました。

 上司神の頭はキラキラまぶしく輝いています。

やじ馬神の頭は輝いていませんが・・・オヤッ・・頭頂の髪が数本光っている者もいます。

1本の者もいるし3本光っている者もいます。もちろん10本以上光っている者もいました。

3本光っているやじ馬神が熱心に池をのぞいていました。

 下界が一面くすんで濁にごっているということは、生きとし生けるもの、すべての生命が弱っている事を

示しています。

 人間界係の神は責任を問われて、同僚神達につるし上げられました。

つるしあげられたのは、熱心にのぞいていた、あの3本髪のやじ馬神でした。

すると上司神は申しました。

上司

「これこれ、同士討ちは何の役にも立ちません。どうしたら良いか、知恵を働かせなさい。」

同僚

「しかし、このような状態になるまでほおっておくとは・・・職務怠慢もはなはだしいではありませんか!

 もし、手に負えないくらい人間界が衰退していたら、もう一度、地球を作り直さなければなりません!」

上司

「いやいや、決して怠慢なのではない。私が指示したのだ。 つまり、人間達はとことん地獄を体験しなければ、判らないのだ。健康にあって健康のありがたさを知る人間は少ない。

 病気になって、初めて健康のありがたさを知る。

 自然を汚し、失って、初めて大自然の重要さを知るのだ。

 地球は死の寸前にある。人々も間もなく死にたえるであろう。」

同僚

「・・・!! ・・・なんでそこまでしなければならないのですか?!」

上司

「行って見ればよい。人間は印刷した紙幣を万能と思い、どんどん作りだし、その紙を命より大事にして

 大自然の作品と交換しておる。その紙切れには、機械がものすごい速さで数字を印刷しておる。

 大自然の作品(動植物鉱物)を我々が創造するには時間がかかる。

 地球の豊かな大地、空気、水、食物連鎖の生態系を作り出すのに、数十億年かかっておる。

 それらを人間達は百年足らずで破壊していった。

 紙切れを命よりも大切と思っている。紙は紙である。何の力も持たない。人間を養わない。

  しかし、その紙切れが無いと自殺する人間もおるが、自然が破壊され、無くなることに、絶望する人間

 はいない。」

同僚

「でも、自然が無くなったら、人間も生きていられないでしょう。

 そんな簡単なことを、人間は理解できないのですか?」

上司

「そのようじゃ。」

同僚

「何故そんなになってしまったのですか?」

上司

「原因は様々である・・・・我々も少し放任し過ぎたのかも知れぬ。

 どこまで人間が地獄を体験すればコリゴリするのか・・・・・

 しかし、地獄ばかり歩いた為に、天国を忘れてしまったようじゃ。

 だが連れもどす望みはある。クモの糸のように細いが、ある仕掛けをしておる。ところどころ、その仕掛

 けが芽をだしておる・・・が、まだまだ枯れる恐れもある。

 うまく育ってくれれば、万々歳じゃがの。どうじゃ、この仕掛けた芽を、立派な大樹にしてみるか?」

同僚

「彼(三本髪の神)だけで出来ますか?」

上司

「いやいや、そなた達も力を貸さねばならぬ。そなた達次第じゃ。

 “成せばなる、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の成さぬなりけり”ということわざは、二通りの意味が

 ある。 判るか?」

同僚

「・・・・?」

上司

「ま、やってみなされ。そなた達も勉強になるじゃろう。

 人間がどれだけ地獄にコリゴリしたか、ゆずり合い助け合いを、どれだけ楽しむことが出来るか・・・

 “楽しむ”がバロメーターじゃ。コリゴリしなければ、引き続きそのまま地獄で遊ぶこととなるが、

 この度は死の遊びとなる。」

 ・・・ということで、神様達は上司神が仕掛けた芽を育てるべく、何となく池から下をすかして見て、

 日本を人間ウオッチングすることにしました。

 そして又、何となく、自然や人間の生命に一番関係のある話題を探し出すことにしました。

 

2004年8月  日本国 東京都東京区東京町・・・

 

 テレビでは、世界の人々が、宗教の違いや利権あらそいで起こる、人間同士の殺し合いの様子や、経済

 市況、天気予報・異常気象なども繰り返し放映しています。

 神様達のあたまには、それぞれ金の髪が数本づつ光っていましたが、合併問題や公金の使い方などの

 ニュースに、ツンツンキラキラと反応しました。

 それは上司神が、人間世界を立て直す仕掛けのヒントを、神様達に与えたサインだったようです。

 神様達はそれらのニュースに注目することにしました。

 しばらくして、神様達は自分達の頭からそれぞれ金色の髪を1本抜いて、思い思いの方向にフッとひと

 吹きして飛ばしました。

 金色の髪はキラキラ光りながら、それぞれの方向にキチンと飛んで行きました。

 テレビでは、ニュースキャスターが説明しています。

 「合併問題は明治時代から始まっています。日本は明治の廃藩置県(はいはんちけん)から数回に渡り、

 行政上(教育・土木・徴税・福祉・戸籍などの事務処理)整理しやすいものにするために、江戸時代から

 の71314町村が合併・統合され、大正11年には12315町村に 整理されました。

 昭和の大合併は、再び効率的な地方自治を目指して行われ、昭和36年には3472町村に減りました。

 今回の平成の大合併は、国の財政危機から市町村の自立の為に行われ、1000町村に整理統合する計画

 です。 つまり、国に頼らないで、自分達の力(自立)で生活して下さい・・・という切実な事情で行わ

 れるわけです。

 今までは、行政上、事務処理の効率をよくするために行われるのが主な目的だったのですが、今回は効率

 改善も含みますが、事情によっては〈切り捨てのふるいにかける〉ということを理解する必要があります。

 自立するための支度金(地方交付税の特例・合併特例債など)も配慮されています。」

 このニュースを聞きながら、3本神は自分の頭に手を伸ばし、再び1本の金色の髪の毛を抜き、池から

 下界へ向けてひと吹きしました。

  金の髪はヒラヒラしながら、日本の国の東京の郊外に住む4人家族の家に舞いながら消えて行きました。  残りはあと1本になりました。

 

4人家族の主人の名は、平(たいら)凡吉(ぼんきち)と申します。

妻の名は増代(ますよ)ですが、体格から子供達は『ゾウさん』とかげ口をたたくこともあります。

息子(長男)は豚司(とんじ)、 ニックネームはトンチャン又はブーブ。

大学2年生ですが、1年留年しています。

娘(長女)は蝶子(ちょうこ)、ニックネームは蝶ちん。

大学1年生。アルバイトに熱心で、収入のすべてをおしゃれに投資中。

 

以上、簡単に紹介しましたが、平(たいら)一家でもこのテレビを見ていました。

ヒラヒラと金の髪がマドから飛び込んできましたが、家族の目には止まりませんでした。

金の髪は空中でちょっと止まってから、息子の豚司の髪の中へヒラヒラピタッと着地を決めました。

主人の凡吉は高校卒業後、東京で就職し、同郷の一級下の増代と恋愛結婚、そのまま東京に住んでいます。

出身地は東北の田舎で、まだ両親も元気です。

ついでに、両親も紹介しちゃいましょう。

堅司(けんじ)(祖父・敬称=ガンジー・頑固に由来する。83歳)

智子(ともこ)(祖母・敬称=婆智(ばばち)・知恵者に由来する。79歳)

さて、話を家族に戻しますと・・・・

「こんなテレビつまらない。番組変えるわよ?」

「ちょっと待って・・・田舎のおじいちゃんの所も、となり村と合併する話、おじいちゃんが

 言ってきたから少し様子見て・・・合併で便利になるってことかしら?」

「今時、良い話なんかないさ。国にお金が無くなったから、自分達で自立しなさい、10年後は

 めんどうみないよっていうことさ」

「市町村のクビチョンパ合併って事?」

「いや首は切らない。10年間、その間に自分達で自立するように支援金もでる。

 今回、政府がクビ切り役人になるのではない。市町村が自分達で責任を持ち、支援金を生かして

 自立する。 その生かし方に失敗した時、自分達で責任をとって切腹する・・

 ハラキリ合併と言う写真文章」

「支援金のお金の使い道次第で、ハラキリ問題になるなんて・・・ 誰がハラキリして責任を取るの?」

「合併市町村全体がだめになるのだからつまり、住人全部が無理心中よろしく、ハラキリしなければならな

 いということだよ。簡単に説明すれば、10年後は役人の給料予算も半分以下となる 当然福祉の支出など

 の余裕は無くなる。病人は放り出されるかも知れない。そんな所には住めなくなる。過疎が急激に進む。

 ほとんど無人の町や村となる。」

息子

「ウソ~~ッ・・・そうなったら、誰がお米をつくるんだ?」

「お兄ちゃんが行って作れば?」

息子

「バカいえ!・・・オレは作れない。食べる人だからな・・・・ でも食べるものが無くなったら・・・

 タイヘンダ~~~オレ達もハラキリだ! 無理心中のとばっちりを受けそうだ!」

「大げさね。大丈夫よ。誰かえらい人達が何か考えてくれるわよ。」

「えらい人ってだれ?・・だれがしてくれるの?」

「政府の人達とか、役場の人達とか・・・」

息子

「今までその人達が責任持って、世の中を動かして行ってくれたんだよね?

 お金も自由にしていたんだよね?・・・  でもダメだったよね。その人達の責任はどうするの?」

「人まかせはダメってことだろうさ」

「ダメって言ったって、どうやって良いか判らないんじゃない?

 田舎のおじいちゃんも、頭イタイ問題だって電話で話していたわよ」

息子

「そう言えば、おじいちゃんは合併協議会の責任者になったんだって。ちょっとえらそうに言っていたよ」

「自立支度金の使い道などを協議するんだろうけど、切腹問題にもなりかねないやっかいな仕事に、

 くびを突っこむなんて・・・」

「昔から、世話やきが好きな人だから・・・そのわりに役に立つことがないみたい。

 余計なおせっかいが過ぎるのかしらね?」

「今回の問題は、がけっぷち問題だから・・・ 後がない。

失敗は許されない。やり直しはきかない やりかたをまちがえれば、待っているのは無人の村、自滅のみ。」

息子

「え~~一席、物知りのトンちゃんを披露させて頂きます。都道府県市区町村・・・日本の最小単位は村。

 日本の85%は森。森の管理は村が支えている。村は日本の心臓部です。その村が無くなったら・・・

 日本ハメツか?!・・・  これは冗談言っている場合ではない?!」

「フン、今さらナニ言ってるんだ。村のことより自分のことはどうなんだ。若者よ、立て!」

息子

「それって、オレ達にも早くスネかじらないで自立しろって?」          

「そうねえ、お父さんの会社もいつどうなるかわからないから・・・

 もう少し、おまえ達にもしっかりしてもらわなければ・・・」

息子

「耳たこだよ。でもやりたいことが無いし・・・」

「今時やりたいことなんかあるものですか!・・・私だってがまんしてアルバイトつづけている。

 だってお金がないと何も出来ないもの」

息子

「蝶ちょうちんはおしゃれし過ぎだよ。飾ったって仕方ないのに・・彼がいるわけじゃなし・・・」

「だから身だしなみ良くするんじゃない?・・・ブスじゃ彼氏も出来ない。兄さんこそ食べすぎ!」

息子

「俺は英気を養っているのさ。いざという時のために」

「そのいざっ!って、いつ来るの?」

息子

「・・・・・」

「ま、言い合いはそれくらいにしろ。銀行がつぶれる時代だ。

 誰も自分のことだけで精一杯さ。これからは国にも頼る事は出来ない。

 皆の税金で国は運営されているのだから、自分達の金の使い方くらい、責任持つのが当たり前だろう。 

 人まかせにしたツケが、回ってきたのさ」

「ツケは次にツケといてもらって、畑の雑草取りかたがた、おじいちゃんのごきげん伺いにでも行きましょうか。お盆には早いけれど、お婆ちゃんも待っているし・・・」

息子

「母さんはいつもツケを後回しにしちゃう・・ ノンキでいいな」

「ノンキでなければ、あなた達の母なんてやってられますか!」

・・・ブツブツ言いあいしながらも、とにかく家族旅行は、全員一致の賛成多数できまりました。

 

 7月吉日、家族は年一度の里帰りに出発。

首都高速を抜けると、ぐっと車の数が少なくなりました。

風も涼しくなり車外の景色もみどり一色。

 凡吉や、増代にとっては、幼いときの見なれた景色が続くようになりました。

そこで懐かしい景色に車をとめて、ほっとひと休み。

昼下がり。行き交う車はなし。かんがい用水が道のわきを流れています。

 

「お父さん、昔はこの辺、ホタルが一杯だったわね」

「うん、トンボもセミもうるさいほど居たな」

「あの灌漑用水だって、セメントでなくて小川だったし、小さい時、裸でよく泳いだ・・・」

「田んぼにドジョウやイナゴが一杯いたし・・・ヒルにはよく血を吸われたっけ・・」

「ヒルはいやだったけど・・・ヘビが田んぼの中をよく泳いでいるのを見た。         

 ヘビはくねくねして泳ぎが上手よね。」

「イヤーッ ヘビなんて・・ だから田舎はキライ」

息子

「お米もキライかよ。」

「そんなへんな事ばかり言うから、彼女も出来ないのよ!」

「どっちもどっちだろ。さて、出発しようか。」

 実家に到着。家の裏に竹やぶがあり、小川が流れている。

「おばあちゃん、今年もお世話になります。」

祖母

「よう来たね。疲れたろ。スイカ冷してあるから、

 まあ、上がらんね。じいちゃんは寄り合いに行ってる・・ 草抜きも間に合わんで困っとるに」

「寄り合いって合併問題の?」

祖母

「そうじゃ。ラチあかんのよ。皆の言い分は多いがの、よい案がいつまでたっても出ない。   

 フン詰まりのようじゃ」

息子「ばばちが話せばいいのに?」

「ババチだなんて・・・ちゃんとおばあちゃんと言いなさいよ」

祖母

「いいんだよ。婆の智恵と言うことじゃろ。婆智ばばちは気に入ってるよ」

息子

「そうだよ、尊敬して付けたんだよ。おじいちゃんのあだ名は、おじいちゃんに言えないけど」

「がんこのガンジーなんて言ったら、もう田舎に来れないわよ」

「親父は正に頑固だ。がんこでいこじな所もあるし・・豚司はあだ名つけの才能があるよ」

「お父さん、そんなこと言って・・・お父さんのあだ名知ってるの?」

「見当はつくさ。子供の頃から友達にからかわれたからね」

息子

「それで僕の名前も豚司とつけたの? 頓智(とんち)ならよかったのに」

「名前負けしない方がいいんだよ。名前をふみこえればいいんだから」

息子

「言うはやすし、行なうはがたし・・・あっガン爺が帰ってきた!

 おじいちゃ~~ん。こんにちわ~~~っ」

「(小声で)調子いいブーブ・・・ フフフフ」

祖父

「よう来た。忙しくての。わしが出なくては始まらんというて・・・・  

 今日は、村長も県庁の役人も出席しおった」

息子

「おじいちゃんはえらいんだね。ハラキリしないようにしなきゃね」

祖父

「ハラキリ?・・何のことじゃい?」

「関係ない話ですよ。土間で話していてもしょうがないから・・・上がりましょう」

 いろりのある居間。合併問題の書類と本が数冊、つまれている。

息子

「わっ!ガン爺・・違った! おじいちゃん、本読んでいるの?」

祖父

「少し勉強しないと、役所の決まりごとがややこしいのでの、合併で大変じゃ」

息子

「ばあちゃんも本読んでいるの?」

祖父

「ばあさんは読んどらん。男の仕事じゃけ。」

息子

「みんな関係あるんじゃないの? 失敗すれば皆んな無理心中だし・・」

祖父

「ハラキリだの無理心中だの・・・ 一体何の話じゃい?」

息子

「今まではほとんど、男の人が国を動かして来たんでしょ。

 その結果、失敗した社会が出来上がったんだよね?

 だから今度は、男の人の知恵ばかりではなく、皆で考えたら?」

祖父

「何事も大局に立って物事を決めなくてはならん。

 女子は見る目がない。目先のことしか考えない。まかせておけぬ。」

「目先や足元を固めながら、先々のことは、少しだけ考えればいいんじゃないの?」

祖母

「(小声で)足元の落とし穴に気づかずに、理想ばかり追いかけて・・・

 ほんにトンボ追いかけて、クソダメに気づかない人達じゃ・・・」

息子

「それでどんなことを相談してきたの?」

祖父

 「いろいろあるが、決まるまで大変じゃ。

 トンちゃんは何でそんなことを知りたいのかの?」

息子

「・・・うん・・ちょっと・・・何か変なんだ・・・気になって・・・変だよね・・・

 関係ないのに・・・」    

祖母

「関係ないことないよ。トンちゃん達若い者がしっかりせんと、古い人間は頭が固いから・・・」

祖父

「ばあさんは何もわからん。若い者は考えが浅い」

「いいかげんにして食事にしましょ。おみやげにデパートの地下で、おかず買ってきたから。」

祖母

「トンちゃん、私は何もわからんよ。 ただ、ホタルやメダカ、どじょうが川に居て欲しい。   

 昔はゴミなんてなかった。 どこの水だって飲めたし・・・ これからどんなになるのか、時々恐ろしく

 なるんだよ。トンちゃんやチョウちゃん達の子供は、無事に育てられるのかね?」

息子

「うーむ、うーむ・・・ うーむ」

「めずらしく豚司が考えているな。ま、名案もないだろうけど、考えないよりはましかな」

 

 第1日目の夜中。豚司の部屋はまだ電気がついている。

 合併問題の本を読んでいるようだ。婆ちゃんが孫の好きな冷した白玉だんごを作って、部屋にそっと入っ

 て来た。そしてヒソヒソ声で言った。

祖母

「トンチャン、もう12時過ぎだよ。そんな本読んでどうするんだや?」

 豚司もヒソヒソと答えた。

 お互いのヒソヒソは、けっこう楽しそうに答えたりたずねたりして続いている。

息子

「ばば智、本当に昔はゴミが無かったの?」

 祖母

「ゴミどころか、鉄くずやガラスくずまで無かったよ。物が何も無かったから、皆リサイクルして作り直し

 たさ。戦後、どんどん便利なものが出来はじめて、父ちゃんの稼ぎでは買えないので、かあちゃん達も

 共稼ぎを始めて・・・時間がないから、一か所で買い物が済むスーパーがはやり始めて・・・ 

 その代わりに小さなお店には客が行かなくなり、皆つぶれた。

 家庭ゴミの大部分はスーパーの包み紙じゃないかえ?」

息子

「ゴミが無かったなんて、最高だね!」

祖母

「しょう油買いに行くんでも、皆ビンを持って行っただよ。」

息子

「ビンを持って、どうするの?」

祖母

「酒屋さんや雑貨屋さんに大きなしょう油たるやら酒たるがあって、ビン一杯に、はかり売りしてくれたん

 だよ。ミソだって竹の皮に包んでくれて、家でオニギリなんか作った時に、又竹の皮が包み紙として役に

 立ったんだよ。竹の皮の匂いが何ともいえなくてね」

息子

「ふーん、でも魚やトーフなんて、どうしたの?」

祖母

「おなべや、何か入れ物を持っていって買ってきたよ。そうするのが当たり前だったからね」

息子

「何だかめんどくさい感じがするね。」

祖母

「ナンのナンの・・今じゃあ、水もれしないタッパーのような入れ物もあるし、それよりも包み紙のゴミ

 だしの方が大変だよ。今、何でもハカリ売りしてくれるところがあったら、どんなにいいかといつも思う

 んだよ。」

息子

「へえ~~、魚や、八百屋、肉や、そうざいやって、一軒一軒まわって買いものするの大変じゃない?」

 祖母

「けっこう楽しかったよ。今はやりのコミニケーションが出来たしね。何よりも小さなお店まで、皆が生活

 出来たからね。」

息子

「共稼ぎが始まる前は、専業主婦が買いもの出来たから、お店まわりの時間もあったんだね。」

祖母

「戦争で、日本は何もかも失ったからね。家も食べるものも、衣食住ぜんぶ・・・東京などは焼け野原だけ

 が残ったんだよ。 何もかも最初から買わなければならなかったから、女達も稼ぎに出るようになったん

 だよ」

息子

「ばば智、今はモノあまり時代だね。」

祖母

「最近は皆んな贅沢になった。まだ使えるものをポンポン捨てて、ほんに今にバチが当たるよ・・・ オヤ、おっかない顔して、どうしたの?」

息子

「バチって、もう当たっているかも知れない。地球中ゴミだらけになって、臭くなって、水も飲めなくなっ

 て、皮膚病も増えて・・・ねえ、昔のようにゴミが出ない方法って無いのかな?」

祖母

「それはトンちゃん達が考えなきゃあ・・・ばあちゃん達は行き先が短いからね。神様からのお迎えは

 ことわれないしさ。昔とちがって科学も進歩したし、何でも出来る時代になったんだからね。

 少しづづ皆がゆずり合えば、どんな事でも出来るだろうよ。力を合わせればね。

 トンちゃん、協調という字は、周りの言う事に、3つの力を足す(+)と書くんだよ。

 日本語は意味が深いね」

 

 よく朝の食卓。

朝とれたばかりのトマト、ナス、いんげんなどの田舎料理がならんでいる。

産みたてのウコッケイの卵も、ここでは高価なものではなく、つつましく小さな入れ物におさまっている。

ウコッケイの卵は、出始めの頃、東京のデパートでは1個1000円ナリの値札がつき、話題になった。 

今は1個400円から500円で売られている。

 

「トンちゃん、さっきからどうしたの。いつもガツガツ食べるくせに」

息子

「・・・・・・」

祖母

「(小声でひとり言)我、思うゆえに我あり・・・

トン(豚)ちゃんから人になったんだよ・・・・」

息子

「・・・お母さん、東京で買い物して来たけど、ゴミ出た?」

「あたり前でしょ、ホラ、その袋一杯・・・ すてなきゃ・・」

息子

「毎日毎日、どの家からも出るんでしょ? へらせないの?」

「食品メーカーに言わなければダメでしょ。第一、買い物が出来ないじゃない、包装されていなきゃ棚にも

 並べられないし・・」

「はやく食べなさいよ。食べないなら私が食べちゃうよ」

祖母

「(小声で)蝶子は蝶々・・ミツ集めが好き・・・」

息子

「・・・・!! ・・・ひらめいた! ・・・ごちそうさま!

 蝶ちん、僕の食べていいよ・・・いや、後で食べるから残しといて!」

 

 豚司、部屋に戻り、集中して書き物をしている。

ばば智、そっと部屋を覗く。

 

祖母

「昨日からあまり食べないで、体こわすよ。続きを書いてるのかい?」

息子

「うん、ちょっとね。ヴィジョンをね・・・マンガにしてるの」。

祖母

「ふーん、ばあちゃんもそんな風に考えたことがあるよ」

息子

「えっ!? まだ少ししか書いてないのに、こんな絵で意味がわかるの?」

祖母

「そうよな・・ トンちゃんは地産地消(ちさんちしょう)という言葉を知ってるかの?

 この田舎でも皆が考えたことだよ。

 土地で出来たものは土地の者達で消費しようという意味での。

 この言葉を合言葉にして、皆でがんばろうとしたがの。消化不良を起こしている。

 土地で生産したモノを、生産した者に消費しろとすすめたって無理じゃろうがな。

 道の駅などで、観光客や近場の人の消費が少しは多くなったがの。

  そんな時に、ばあちやんが一つ考えた事があったのよ。誰にも言わんかったがね・・」

息子

「なぜ言わなかったの?」

祖母

「どんどん考えていく内に、だんだんむずかしくなっての、めんどうになったんじゃ。

 今考えてみれば、そのカベも若い者ならとっぱできそうじゃ。

 そのカベはの、地産品目を増やすことじゃった。

 インターネットなど利用すれば出来そうじゃが、キカイは苦手での。

 婆は実現できない夢は追いたくないが、夢も時代と共に本物になる。

 江戸時代、空飛ぶ事は夢だったが、今の時代は宇宙に飛び出している。

 トンちゃんのヴィジョンはもはや夢ではない・・・何でも出来る時代になったよ」

息子

「ばば智、ボク、そんなに大きいことを考えているんじゃないよ。ゴミを出さない方法だけだよ。」

祖母

「トンちゃん、ゴミの中身を考えたことがあるかい。スーパーのゴミだけではないよ。衣食住を便利にする

 ものすべてからゴミが出るんだよ。

 果ては原子力発電からはプルサーマルという放射能の廃棄物までね。」

息子

「ギャーーッ、ばっちゃん、ナンでそんなことまで知ってんの?」

祖母

「ばあちゃん達は老い先短いからの、立つ鳥、後を濁さず・・・濁しっぱなしになりそうなんで、

 申しわけないと思ってさ。

 昔はこれでも文学少女だったから、本だけは今でも読んでいるよ。 何も出来ないがね」

息子

「へえーーっ、良心的なんだね」

祖母

「トンちゃん達が可愛いいからの。 ホタルもニワトリもトンボも皆可愛いい」

息子

「・・・!・・ひらめいた!・・・ばばっ智と話していると、いろいろな考えが出て来る。おもしろい!

 忘れないうちに描いちゃうから、又後で、ボクの知らない話、聞かせて」

 

 夕ぐれ・・・まだ陽は高い。

都会では味わえない、涼しくさわやかな風が部屋を通りぬける。

 豚司、頭をかかえている。

 

 3本神、今や1本髪になった神が、その様子をじっーと池からながめている。

豚司のエンピツはなかなか動かない。進まないようだ。

 

 3本神、しばらく腕組みをして考える。

数分後、頭の最後の金の髪をぬき、しばらく手の平においてながめ、握りしめてから、

大きなため息と共にフッとひと吹きした。

 金色の髪はヒラヒラヒ~~ラと舞いながら、踊るように豚司の頭の中に着地した。

豚司の目がキラキラ、キララとかがやいた。

 

息子

「エート・・・エート・・・地産地消するには生産品目をたくさん生産してニーズに答える。

 ゴミを出さないようにするには、地元の店で買い物をする・・・

 入れもの持参・・・でも、何軒も店をまわるのは大変だな・・・・

 一か所にまとめて便利にする必要がある。

 道の駅をもっと村の人達のための日常的なコミニティの場にしたら・・

 村の中のミニ都会風にして、文化の発信場所にもする。

 毎日、何かと一度は顔出ししたくなる場所にして、交流する。

 文化の差は、東京も地方もちぢまっている。 情報は時間も距離もなく同時に受けとれる。

 村の人は生産者であり消費者だ・・・・・村でお金を使ってもらうには・・・村通貨を発行して・・・

 村で消費してもらう。村で消費するためには、コンビニで、沢山の自給自足品を並べなきゃ・・

  沢山の自給品を作るには・・工房なんかも必要だし・・・金がかかる・・

 うっ!合併支援金や税収をつかえば、もしかしたら、もしかするかもね。」

 問題を整理するために村の生活マップを作ってみよう。

 雪の多いところは、雪下ろしが大仕事だと聞いているから、屋根はドーム形がいいかもしれない。

 かなりの重さにも大丈夫らしいから・・・

 ちょっとアラビアンナイトの建物みたいかな?・・・ま、いいか?

 それからっと・・・・・まず、村の端から半径5~6キロの場所に、

 コミニティステーションを描いてみよう。自動車なら10分位で来る事ができる所に・・・

 豚司のペンが、どんどん動いていきます。 どんなマップができるのでしょう・・・・・

 

 村の生活マップ。

 

  村の中央、半径5~6キロの位置に、いくつもの小さな建物がまわりをかこむようなドームハウスが

 描かれている。

 雪の多い所なので、雪おろしをしないで済むように、ドームの屋根にしたらしい。

 ドームハウスはコミニティステーションになっていて、住人の生活に必要なほとんどの日用雑貨品・

 食料品などをそろえたコンビニエンスストアや、生活向上のための便利情報・趣味・保育園・スポーツ

 クラブの設備ができている。         

  コンビニは外部の訪問者も買いものすることができる。

 このコンビニで、住民が自給品を地域通貨(ハートマネー)で買うときは、定価の半額(自給品が増える

 と50%~90%OFFも可能になる)で買うことが出来る。

 

 この村で発行する地域通貨(通称ハートマネー)は、ここの住民である給与所得者が、1か月60時間

(ハートタイムと言う)を村の公共事業(食品・家電・自動車・木工・牧場・メンテナンス・その他、

 生活に直結した内容が多い)に参加すると、報酬として3万円(暫定)が貰えるシステムになっている。

 この3万円は、実質的には6万円の価値がある。

 ハートマネーで買い物をすれば、自給品のすべてが半額になるからだ。

 自給品の生産効率が上がり、コストが安くなり、80%~90%offが実現すると、3万円は実質8万円

 から9万円の価値に変動する。

 この地域通貨の発行と、自給自足品の多品種の提供によって、地産地消は順調に機能し、手堅く自立の道

 を歩き始めることが出来るようになる。

 

 政府が待望している、21世紀の市町村の理想的な形が実現するのではないかと思われる。

 現在、日本の食料自給率は世界最低(40%)と言われている。

 (2004年現在・フランスは95%・ドイツは90%)

 世界的異常気象、世界的疫病の発生、世界外交の行方など、何が起こっても、日本国民の胃袋は 干し上

 がり、飢え死が身近になる。

 

 豚司の頭が混乱してきた。

 

  神界では3本神が池をとおして、豚司のやることを心配気にのぞいている。

 豚司の様子を見て自分の頭に手を伸ばしたが、すでに金の髪は1本もない。

 この様子を見ていた同僚神が自分の髪の毛を一本ぬいて、3本神に気付かれないようにフッっと

 一吹・・・ それはヒラヒラと金色に光りながら、地上の豚司の頭の中に消えていった。

 

 豚司の頭の中に、ずーっと前に読んだ農業の本に書かれていた、お百姓さんの文章が思い出された。

* その土地でとれた植物や穀物は、その土地の人に、栄養も薬草などの効果も最大に働きます。 

* 毒だみは人家の近くに生え、決して人の住まない所には生えません。 

  虫刺され毒消しなど、人間のために用意されたような植物です。

* 安い輸入品に頼り、 雑草だらけの畑、規制され放置された田んぼ、

* 日本の国土は外国の土に比べものにならないほど、豊かであることを思い出して下さい。

* 日本の土で育った米、野菜・果物は世界一なのです。

* アメリカのうまい米は日本からの種もみで作られています。

* 毎年、日本からの種もみでお米を生産しています。

* アメリカで出来た種もみでは、おいしいお米は出来ないのです。

 

  豚司に元気が戻ってきた。

 「そうだ、やっぱり自給自足100%を目指さなきゃ!・・・この方法は、まったくリスクのない方法だ。

 地味だけど、一歩一歩、住民みんなが参加して、しごとも増えるし、大自然も帰ってくる・・

 第一、ゴミが出なくなる!」

 

  三本神は、同僚神と手と手をパチッと合わせてガッツポーズ!

 自分達が伝えたかった事を、見事豚司が心に写し取ったからだ。

  神々は、日本の大地の素晴らしさと、人間が必要とするすべての原材料を、地球は無償で人間に与えて

 いる事を忘れないでくれ! と、豚司に伝えたかったようだ。

 

  豚司のエンピツがどんどん動き始めました。

 豚司のマップはコミニティステーションのコンビニの中を描いています。

 マップを見る前に、この村のシステム言葉が出てきますので説明しましょう。

 

ハートマネー(交歓通貨)

 地域通貨で、この村で発行しています。

 住民同士、“心を合せあい、歓んで得た報酬”という意味で名づけられました。整理券の性質を持ちます。

 有効期限があります。

ハートタイム(交歓時間)

 住民が村の公共事業に参加する時間のことをいいます。     

 得意分野で自主的に交歓エネルギーで行動しますので、通常以上の能力で仕事がはかどり、良い汗と

 共に、体の健康も培われます。この参加時間に対して、応分のハートマネーが貰えます。

アートタイム(自由な創作時間

 土木工事者も農業の人も、建築家もゴミ収集の人も、音楽家も、教師も、その他のすべての職業の人達も、

 すべて自分達が産みだすもの(有形無形を問わず)を、芸術作品として表現します。

 時間・コストに関係無いので、自由に、喜びで、楽しく、表現出来る時間のことを言います。

 

  村人とコミコン(コミニティ・コンビニの略)の店員・通子さんが話しています。

 通子さんはその名前のとおり、村の情報にくわしいです。

 勉強家であり人気者で、皆にたよりにされる人です。

 

 マップを実況中継してみましょう。

村人

「こんにちわ! この間頼んでいた黒糖、入ったってIP電話もらったんでとりにきたよ」

通子

「きのう、持ってきてくれてね。役場の開発仕入れの集太さんが沖縄の生産者と話して、こちらからは

 “梅干”との交換らしいよ」

村人

「食品はどんどん種類が増えるね。日用雑貨がもっと増えてくれるといいんだけどね・・・ステンレスでは

 ない包丁が欲しいと思ってるんだけど、まだ無いね」

通子

「ううん、近々入るみたいだよ。前にやめてしまった鎮守わきの鍛冶屋の矢兵じいさんに交渉しているん

 だって。ハートマネーで買ってくれるなら作ってもいいって・・・まだ道具は残っているんで、火入れが

 出来れば刃物は作れるらしいよ」

村人

 「それは助かるよ。矢兵じいさんのクワはまだ使っているよ。私は体が小さいから、身長に合わせてクワは

 作ってもらったんだよ、40年前にね。

 でも刃はつぎ足してもらって十分使えるのに、店を閉めてしまってから、刃のつぎ足しはどこにも頼めない

 から、このクワで最後だなと思ってたよ・・ 良かった!」

通子

「息子さんがね、帰ってきてくれるそうよ。 20年前までやっていたんだもの心強いよね。

 交歓村システムになって、生活できるようになったし・・・ ふるさとはやっぱいいんだろね。」

村人

「矢兵じいもにぎやかになって嬉しいこんだねおトーフひとつ、タッパに入れてよ。

 その煮物は八重さんが作ったの?」

通子

「そう、ハートタイムで、ほとんどのおかずは八重さんが作ってくれる。毎日完売、うれ残りなしよ。」

村人

「もっとたくさん作ってくれればいいのに、午後から来るとほとんど売りきれだもの」

通子

「ハートタイムの60時間では間に合わないので、ワークシェアリングでお願いするって、タイム調整の

 役場の人が言っていたよ」

村人

「役場の仕事におかず部のタイム調整なんて・・・変わったね。

 本当に生活密着型になって、生活しやすくなった。」

通子

「黒糖と豆腐で600円だけど、ハートマネーなら半額、300円なり」

村人

「ハートマネーでお願いします。ハイ300円、御世話様」

注〔タイム調整〕とは、たとえば役場の公務員も地域通貨3万円を得るために、役場の仕事以外の公共作業

 を手伝い、ハートマネー(地域通貨)をもらう。

 役所での受持ちの仕事が人手不足になった場合、外部から希望者・適任者をいれることが出来ます。 

 ワークシェアリングです。

  この場合、支払われる報酬は、普通の円通貨で、規定の自給です。

 また、自営業でどうしてもハートタイム参加が無理な場合、通貨価値の変動に合わせて、地域通貨(ハート

 マネー)と円通貨を両替してもらうことになります。

 3万円ハートマネーを購入する場合、6万円の円通貨を支払います。

 ハートマネーなら、村営の自給自足品が50%OFFで購入できるので、実質は減ることになりません。

 

 コンビニに若い学生ギャル風の客が賑やかに入ってくる。

 一人茶髪。他の二人は学生風。都会からの観光客らしい。

 村の中をまわっているレトロバス(復古調木炭車)に乗って、コミニティステーションへ到着、

 コンビニに入っていく。 村の買物客がコンビニの商品を見てまわっている。

茶髪

「木炭バスなんて初めて乗ったわ。」

学1

「見たのだって初めてよね。」

学2

「木を燃やして走る車のことなんて、全然知らなかった」

茶髪

「私は写真で見たことがあったわよ。でも今、日本中さがしても、あまりないんじゃない? 

 珍しいから観光の目玉にしたのかな?」

学2

「さっき通った川沿いの所に、三つ並んだ水車がまわっていたでしょ?あれも観光のためかな?」

 

 村人、都会のギャルの話に耳をダンボにして聞いている。

 茶髪がちょっと気になる様子だが、日焼けした村人の顔が、少し得意げな表情になり、ギャル達の話に

 割り込んできた。

村人

「いんや、この村は観光の為のものは一切作らないんよ。

 三連水車も観光のためではなくて、ここの人達のための水力発電機さね。

 その水で養魚池を作って村の人達の食用にしているよ。

 ホラ、注文すれば、活き魚もコンビニで売ってくれる。」

茶髪

「へえ、観光客は呼ばないの?」

村人

「んだ、観光客はいいけど、汚されるから考えものだべさ」

 

 3ギャル(茶髪の茶子・翼・笑子)は、不服そうに顔を見合わせる。

 

店員の通子が間に入った。

通子

「いや、呼ばないのではなくて、観光の目玉をちょっと変えたんですよ。

 立派なホテルや花火やイベントもいいけど、どこでも同じ事をやってるし、お客の取りっこして、だんだん

 飽きられて、維持費だけかさんで、赤字でつぶれた所が一杯でしょ。

  この村は、合併のための 支度金や村民からの税収を、 観光のためではなくて、村人達のために、基本的

 に自給自足出来る、生産設備を充実させるために使うことにしたんですよ。 

  ただし、『楽しみながら、美しくね。』

 あの三連水車も、木炭車も、皆んな村人の案ですよ。

 自分達の村は自分達の手で!・・がキャフレーズ。

 自分達の為に、楽しく美しいものにする・・

  結果的に仕事も増えたし、都会へ出ていった子供達の手も必要になって、毎日、これからどんな事をして

 いこうかって、子供のようにワクワクすることがありま すよ。 私も好志隊の隊員しています。」

「コウシタイーって、何のことですか?」

通子

「こうしたら?とか、ああしたらとか、考えて試してみて、提案する課を役場の中に作ったんですよ。 

 このコミニティステーションの中の設備も、皆で考えて作ってね。

  今までは役場まかせだったけど、自分達が必要なものは、自分達が一番よく知っているからね。

 合併の支度金や税収で、自分達の生活にいつまでも役立つものを選んで、ととのえているんですよ。

 打ち出の小づちのような設備をね」

茶子

「このロビーの奥にある部屋は、どんなものがあるのですか?

 私たち来年大学卒業なんですけど、私は卒業論文に何を出そうかなとまよっているんです。

 ちょっとここの村がオモシロそうなんで・・・

  ここに来る途中も道の両脇にも花が一杯だったし、今夜はホタルを楽しみにしているんです。

 まだ飛んでますか? この頃の観光旅行って、昔返りしているみたい・・・」

通子

「昔返りって言っても、昔は大変だったんですよ。みーんなビンボーでね。

 今のように機械が無かったからね。年をとると重労働で、皆、こしが曲ってしまった。

 信じられないでしょう? 今は重労働しなくてよい時代になったし、働くこともコミニケーションのひとつ

 だし、創造性も発揮できる楽しみだと判ったのよ。

  今までは労働力を会社に買って貰っていたけど、この力は自分達の為に使いたいですよね。」

茶子

「今は自然の中で暮らすことが一番のゼイタクって言われてますよね。

 皆あこがれているけど、田舎では生活出来ないから仕方ないのよね。大学もないし・・・」

通子

「都会生活は便利だからね。でも時々都会のいとこの家に行くけど・・・

 長く住みたいとは思えないわね。水道もくさいし、最近は空気もくさくないですか? 

 いとこはアトピーで困っている。」

茶子

「水は買ってのんでるから大丈夫だけど・・・田舎暮らしって耐乏生活のイメージでしょ。

 ちょっと後に引けちゃう・・」

通子

「耐乏生活?・・・若いのに今どきそんなふうに考えるの?そこのロビーの奥の部屋を見学してみて・・・

 あ、案内してあげますよ。ちょっとヒマだから。」

 

 皆、コンビニのわきの通路から中央ロビーに向かう。ロビーに数人の村人がすわって話している。

 ここのロビーは、住民のほとんどが毎日一回は顔を出す社交場になっている。

 

 通子、一人の老人に話しかける。

通子

「地蔵の爺ちゃん、具合はどうね? 今日も酵素風呂?」

地蔵

「んだ、だいぶあんばいはいいんだけど、毎日入るように言われているから、もう少しすれば週1になれる

 べ。だけんど気持ち良いから毎日来てもいいくらいだ」

茶子

「酵素風呂って、米ぬかに酵素を培養したおふろのことですか? このごろ美容なんかでブームみたい。

 だけど入るのになぜ強制されなければならないの?・・勝手でしょ?」

通子

「介護されてる人達は強制的に毎日入るように、役場から回数券がくるの。

 しばらく入っていると、介護不要になって、自分で生活できるようになる人が多いのよね。

 ここにはミニスポーツクラブがあって、リハビリも出来るし、病気ゼロの村を目指しているの。

 健康な人も予防のために、血液サラサラにする酵素風呂には入りにくるわね。

 高血圧なんか100%よくなるから、血圧降下剤なんか飲まなくて済むようになる。

 高血圧は万病のもとでしょ。そのほかにも健康管理には力を入れている・・介護費用をだすよりも、病気

 予防にお金を使った方がずーっと安い上に、よろこばれるものね。

 だから介護される人は健康回復のために、強制的に入浴にさせられるの」

「ふーん、酵素風呂ってそんなにいいんですか?・・・ちょっと入ってみたいな・・・

 ここは保育園も一緒にあるんですか?・・・その隣は料理教室になってるみたいですね?」

通子

「そう、保育園の食事や、コンビニで売る惣菜も作りますし、献立の研究会もありますよ。

 自給自足の限られた食材で作るので、レシピを増やすことで、けっこう楽しい食事が作れます。

 食生活には皆気をつけているから、野草をつんで酵素飲料も自分達で作りますよ。市価の5分の1で

 作れて、とてもおいしい。」

笑子

「保育園の庭に何か動物がいる・・・うさぎ? ニワトリ?」

通子

「保育園の庭つづきに牧場があるんです。ひつじ、ニワトリ、うさぎ、牛・村人専用の乳製品も作ってい

 ますよ。

 チーズを作るために、都会や外国で勉強した子供が夫婦で帰ってきましたし、ニワトリは放し飼いですが、

 卵は宝さがしゲームで、園児が集めてきてくれます。」

翼 

「この部屋は?・・・わっ、大きなスクリーンがある。

 何か上映するんですか?」

通子

「いろいろ勉強会に使ったり、最新のビデオや昔の映画を上映したり・・・

 今の時代、都会の文化はすぐに田舎にとどきますからね。

 緊急用にヘリコプターもありますし、ハイブリットカーも2台、村にありますよ。」

笑子

「ハイブリットカーなんて、乗ったことないわ。」

茶子

「なぜそんな自動車を村で持っているんですか?」

通子

「村の心意気かな・・村の人にも貸出しています。村の中だけ走るのなら、いつでも借りられます。

 出来るだけ自家用車を少なくするためでもありますけど・・・バスも30分間隔でまわっていますしね。」

茶子

「フーン、東京より進んでいるかも?・・・ 生活しやすいですか?」 

通子

「自分達の村ですもの、生活しやすいようにするのは当たり前でしょ。

 この村では通貨が二種類あるんです。国で発行している普通の円と、今度、合併した村で発行したハート

 マネーです。このハートマネーは、村の公共事業を手伝うともらえます。

 公共施設といっても、生活全般に渡っていろいろな施設がありますから、自分の得意な手伝いが出来

 ます。 先月は50mほどの農道と、公園を皆で作っちゃいましたよ。

 予算は3分の1で出来ました。素人で出来ない所だけ、プロに頼みましたけど、ほとんどのところ、知恵を

 集めれば出来るんですよね。

  定年退職した人達って、いろいろ技術を持っていますからね。

 1か月60時間(暫定)の手伝いを村人全員が約束していますから、皆協力してくれます。

 そして3万円(暫定)のハートマネーが得られますが、このハートマネーで村内の自給自足品や、村で仕入

 れた日用雑貨などは、定価の半額以下で買えます。円通貨では定価通りにしか買えません。」

茶子

「自営業で忙しくて手伝えない人は、どうするのですか?」

通子

「ハートマネーが50%OFFの通貨なら、60時間分を、6万円の円通貨と、ハートマネー3万円で両替

 して貰うことになります。

 ですから、村の給料所得者は全員、ハートマネー3万円分を持つことになります。」

笑子

「私の兄は公務員なんですけど、その場合も同じですか?」

通子

「ええ、いそがしい部署でも、ワークシェアリングで都合をつけあっています。私も先週、役所で9時間ほど

 はたらきました。このときの報酬は円通貨(規定時給)です。でも、公務員の時給は高いから、規定時給で

 支払うと余るので、その分は貯めておいて、又、村の為に使うの。」

笑子

「ワークシェアリングはリストラを少なくするために、分かち合いで行うのが理想でしょう? 

 でも、給料が少なくなるのでは生活できないと言う事で、現実には受け入れがムズカシイようですよね?」

通子

「皆、ローンもありますけどね。家の都合に合わせて、現金でハートマネーに変えてもいいし、仕事に参加し

 ても良いのよね。

 でもここのハートマネーは、価値が下がる事はないのです。村営の販売品のほとんどが、ハートマネーでは

 半額以下で買えるから。」

笑子

「そんなことしたら、村は赤字になるんじゃないの?」

通子

「いいえ、それが村の財政は結果的に赤字にはならないんですよ。

 実際にやってみると判るのですが、今まで見えなかった価値・・大自然との共存共栄・健康、やる気など

 の喜びの エネルギーが、予想外のとんでもない大黒字を生み出すみたいです。」

「とんでもない大黒字になるなんて、どういう計算の仕方なんですか?」

通子

「この村には魔法使いが大勢いて、魔法を使って、何でもやっちゃうの。

 なんちゃって!・・・ハハハハハ」

茶子

「魔法使いだなんて・・・でもどんな魔法をつかうわけ?」

通子

「ホホホホ・・・どんな魔法かって?・・・ホントは誰でも使える魔法よ」

茶子

「えーーっ、私でも?」

通子

「エッヘン(咳払いのつもり)、ではね、説明しますよ。

 今の貨幣経済では、大量生産大量消費しないとお金が儲からないでしょ。

 無駄な物まで多くさん作って、コマーシャルで刺激して、必要の無い物まで買い込ませたり・・・とにかく

 お金を集めることに世界中が夢中。でも、自然は破壊され、空気や水は汚れ、健康は損なわれ、病人だらけ

 になり、大人も子供も無気力になって・・・」

茶子

「そうそう、どうしてやる気が起きないのかしら? 何をしたいのかも判らないの・・・魔法でどうにか

 ならないかしら?・・・」

通子

「この村ではね、ワイワイエネルギーをとても大切にしているの。」

茶子

「ワイワイエネルギー?・・・」

通子

「ええ、そう、魔法のエネルギー・・・人も自然の一員なのよね。

 汚い空気や水では、体は健康でいられないじゃない。すこやかな体に健全な心が宿る・・って、本当だと

 思うの。 きれいな空気、おいしい水、好きな仕事で良い汗かいて・・・

  ストレスなんて、よその国の話。

 この魔法の村では、強制ではなく、参加する喜びのワイワイエネルギーでやるから、病気にもならない。

 介護費用や医療費はほとんど支出無し。大地とつながれば、自然にやる気も育つっていう魔法・・・・」

茶子

「田舎の空気がおいしい事はわかります。でも、どうして大黒字になるのかわかんない。

 そこのところの魔法を説明して。」

通子

「そうね。ここでも実験段階だから、他では聞いた事ないかも知れない。だけど、イヤイヤエネルギーで

 仕事するより、皆で参加してワイワイ仕事すると、いやいや仕事するより、倍以上もはかどるのよ。」

茶子

「それだけで大黒字になるって事?」

通子

「そうね。今まで10時間かかっていたものが5時間で出来れば、それだけでも支出が半分になるでしょ。

 さらに病人が減ったり、やる気エネルギーが充満すれば、皆から知恵も一杯でるのよね。」

笑子

「何か判るような気がする・・・だって、ワクワクした時って、あっと言う間に何でも片ずいてない?

 時間の経つのも早いし・・・気持ちの持ちようで、本当に魔法みたいに不思議な力を出しますよね。」 

通子

「そうね。どんなエネルギーよりも、人のエネルギーって凄いのよね。

 皆が自分の魔法エネルギーに気付けば凄いと思うわ。」

「う~~ん ショック! だって今まで一度も人が凄いエネルギーだなんて、考えていなかったもの。」

茶子

「・・・私もエネルギーだってことよね?・・・私が人間でなくて、エネルギーだなんて!・・・じゃあ、

 ガソリンや石油と同じわけ?」

笑子

「ガソリンは燃料だけのエネルギーでしょ。人間は何でも出来るエネルギーを持っているから凄いの

 よネ!!」

茶子

「何でも出来る力だから、魔法エネルギーなのね?」

笑子

「そうよ。ガソリンや石油なんかは、熱に変わるだけでしょ?」

茶子

「じゃ、何でも出来るエネルギーを持っているのに、私は何に使ったのかな? 魔法は使えないし・・・」

笑子

「アハハハ、茶髪にしたり、アートネイルに使ったんじゃないの?」

茶子

「そんなこと言ってくれちゃってるけど、笑子だって、ケーキきちがいじゃないの。」

「ヤメヤメ・・・どんどんボロが出るわよ。それより、私たちが魔法のエネルギーの持ち主なんだと

 言われると、やっぱちょっとショック感じない?・・・」

通子

「どうしてショックなの?」

「だって、エネルギーだとしたら、取り扱いを厳しくチェックしないと、とんでもない事にもなるのかし

 らって、フッと思ったの。ガソリンだって厳重に火気に注意しなければ大火事になるし・・・私達の

 エネルギーだって、野放しにしていたら、大変なんじゃないかと」

茶子

「自分の事を野放しにするなんて・・・どうやったら出来るの?」

「心が思ったとおりにエネルギーが働いて、実現するとしたら・・心をきちんとしないと

 例えば欲望を抑えられないと、セクハラでも公金使い込みでも、何でもしてしまうんじゃないかと・・?」

茶子

「そっか、わかった! ケーキ食べたいと思うと、すぐ、買って食べてしまうのも、欲望を抑えられない

 からなのね。だからお小遣いが足りなくなっちゃう・・・お母さんには説教されるし、弟にはバカにされる

 し・・エネルギーって、思い通りにならないのね?」

通子

「エネルギーは中立なのよね。エネルギーを使う心次第で、善くも悪くもなるんじゃないかしら。」

茶子

「そっか、今度は本当に判った! ケーキを食べたい時は、太るから止めようとか、お財布と相談して我慢す

 ればいいのね・・・でも、その我慢が出来ないのよね~~~」

 通子

「ホホホホ・・・ 出来ないのは誰でも同じよ。

 ところがね、〔皆んなで渡れば怖くない〕って言葉、知っているでしょ?

 この村ではね〔皆んなでやれば、楽しくできる〕事を、皆、体験済みなの。だから、お祭り騒ぎで何んでも

 してしまうの。 何もすることがなくて、ポツンと一人ぼっちが、一番辛い事だわ。」

「それは本当ですね。今はやりのいじめは、仲間外れにする事ですからね。何もすることがないのは、

 とても寂しいと思います。」

通子

「そうそう、判りやすく言えば、この村は魔法エネルギーに目覚めたの。

 ですからね、只今、生活全般に実験中よ。

 魔法エネルギーを生かして使えば、どんなすてきな村も作れるのですもの。」

「それでハートマネーなんか作ったんですか?」

茶子

「そんな地域のお金が、何でいいの?」

通子

「そう・・・今のお金って、日本中どこでも使えますよね。 とても便利だけど、出来れば地産地消・・

 地域で出来たものを地域で消費して、地域にお金を循環させれば、地域が豊になり、過疎地もなくなるわけ

 ですよね。今の通貨の日本円は、表面的には便利だけど、気をつけて使わないと、大きな落とし穴もあるん

 ではないかと思うのよ。」

茶子

「お金に落とし穴だなんて考えられない! どんな落とし穴ってわけ?」

「う~~ん、お金は魔物・・・ってわけかな?」

通子

「紙のお金に意志はないけど、人間に心があるから、どうしても目先の便利さや欲得でお金を扱ってしまう

 でしょ?。

 都市集中型の社会が出来るのは、便利さと人口が集中する事によって、大きな金儲けも出来るからなんで

 すよね。でも、よく考えてみると、その為に失われていくものも大きいのだけれど、それに気付いた時は、

 お金のシステムにがんじがらめに縛られて居て、どうにもなら無くなってしまうんですよね。

 都会の水や空気が悪くなったからって、田舎に移りたくても、過疎にしてしまった田舎では、仕事や収入の

 当てが無くなっているでしょう?」

茶子

「そう言えば、私のおじさんも体を壊していて、実家に戻って畑を作りたいと言っていたけど、まだ、今の

 仕事を続けているみたい・・」

通子

「お気の毒に・・・そんな人、一杯いるんじゃないかしら。

 お金のシステムで、人間の魔法エネルギーも、とんでもないむだ遣いしているんですよ。」

「人間のエネルギーを、何故、むだ遣いしているんですか?

 皆んな、一生懸命働いているんですから、ムダなんてしていないでしょ?

 私もアルバイトで会計事務していますけど、必要ですよね」

通子

「そうですね・・・でも、この村の役場の出納はどんどん簡略にしています。

 まず第一に力をいれているのは生産です。もの作りの現場です。

 アッ、そうそう・・この話は、髭さんに聞くといいわ。とても詳しいから・・・

 一番奥の“なんでも工房”にいる人、後で教えて上げます。」

「・・(ひとり言のように)そうですか 出納を簡略にしているんですか・・・税理士を目指しているん

 だけど・・」

茶子

「あのさ、ハートマネーって、地域でだけしか使えないんでしょ。なんだかつまらないなあ・・・ためる気に

 なれないお金ね?」

通子

「大あたり!! ハートマネーは 今までのお金のような性質を持っていないの。有効期限もあるしね。

 でも地産地消の循環の中では、常に必要なものは供給され続けるから、増やす必要もないし、非常時用に

 ためる必要もないの。

 皆で力を会わせて困る事は解決するから、お金に頼る必要がないでしょ。

 お金は紙切れで出来て居て、人間の手と大自然(動植物・鉱物・人間・水・空気・ほか)が無ければ、

 何の役にも立たないでしょう。今は廃止されましたが、昔は100万円紙幣を発行するのに、100万円分

 の金塊の保証が必要でしたよね。おぼえていますか?」

 

注・兌換券(だかんけん)システム

 国がお金を発行する時、一定量の金をたくわえて、その分だけ発行する。金塊の裏付けがないかぎり、

 紙幣の発行は出来なかったから限度額は決められ、お金と交換される自然の生産物も、過度にさく取され

 ることは、多少ふせげていた?・・・

 

通子

「ハートマネーは整理券として使われています。保証は金塊ではなく、自然と共生して生きてゆきたいと

 思う、自然を大切にする心です。 人々の魔法エネルギーです。

  それに、少しの水と食物さえあれば、魔法エネルギーは誰にでも与えられていて、尽きる事がないで

 しょう? 貧乏や金持ちの差もなく、平等に・・・・・」

笑子

「でも体が弱くてはたらけない人は?」

通子

「先程話したように、この村には“いじめ”は無いんです。」

「“いじめ”? 弱くてはたらけないことと、どういう関係があるんですか?」

通子

「いじめは仲間はずれにすることでしょ。体が弱い人は皆で支えるの。仲間はずれにしないんですよ。 

 “いじめ”って、楽しいことではないでしょ。楽しくないことはしない

 『楽しく美しく』が、この村のモットーですから」

「それじゃあ、サボリたい人に利用されませんか?」

通子

「サボリたいって・・・仕事したくないこと?」

「そう、私もサボるの好きなタイプ・・・」

通子

「なまけたい人はなまければいい。それが楽しければね。」

笑子

「翼ちゃん、なまけって、ちっとも楽じゃないんじゃない?

 私もズル休みや怠けはするけど、どうも後がすっきりしない」

「私、働くのって好きじゃないから・・・」

通子

「遊ぶのは楽しい?」

茶子

「それはそうよ。だれだって遊びたいんじゃない?」

通子

「ここの人達は、仕事を遊んでるのよ。皆出しゃばって仕事しているの。

 皆、参加したいの。 良い汗かけば、健康も、良い知恵も、山盛りに恵まれるしネ!

 ささえ合うと元気になるから、元気が欲しいのよね。」

笑子

「それって理解できる。 自分が役に立っているって感じる時って、充実感あるもの」

「私なんか卒業してしまったら何をしたら良いのかわからない。

 自分の目的がわからない・・とりあえず税理士を目指しているけど・・」

通子

「頭で考えるより、動いてみたら・・・ 体験すれば自分の大切さも、お互いの大切さもわかるわよ。 

 無人島でたった一人で生きているのは寂しいでしょ。皆がいるから元気になれる・・・」

茶子

「うーん、そう言われれば考えちゃうな・・・一人で生きることは出来ない・・・たしかに・・・」

通子

「この先に、いろいろな工房があるから見てきたら?

 右に行くとガソリンスタンドがあって、となりに“自動車工房”と“家電工房”“鉄工房”があるし、その先に

 廃校を利用した“おしゃれ工房”や“木工房”“陶芸・ガラス工房”“ナンデモ工房”なんかあるから・・

 皆遊んでるのよ。楽しくてね。さっきお話しした髭さんも“ナンデモ工房”に居ますよ。」

茶子

「遊んでるなんて・・・ じゃ行ってみる?」

 

 村でたった1か所のガソリンスタンドのとなりに、自動車工房がある。

 そのまたとなりに家電工房と鉄工房がつづいている。

 自動車工房の前に銀色のスポーツタイプ車がある。

 車の下に誰かもぐっている。

 

笑子

「わあっすごい!・・見たことない車! メーカーはどこですか?」

茶子

「笑えみちゃん、大きな声で言わないと、聞こえないわよ。」

 

 車の下から声あり・・・カーキチの宅郎がモソモソと出てきた。

宅郎

「メーカーなんて無いさ。オレ達が作ったんだから。部品もいろいろのもの使っているから、国籍も不明」

茶子

「すごい すごい・・・欲しくなっちゃう!」

宅郎

「売り物じゃないさ。作るのに時間がかかる・・・スピードもまあまあだ。」

茶子

「どれくらいの時間で作れるの?」

宅郎

「はかったことないから・・オーイ、これ、いつから作ったんだっけ?」

太一

「去年からだから、1年近いかな?」

茶子

「・・・大変な力作・・・でも売り物じゃないのね?」

宅郎

「うん、皆で乗りまわすだけ・・・飽きたらゆずる・・」

茶子

「飽きたら高く売れるんでしょ?」

太一

「そうだな、前の車も欲しい人がけっこう高く買っていったね。」

宅郎

「この車は、オレが欲しい」

太一

「ほとんどおまえが作ったんだから、持っていけばいいさ。 今度は乗用車タイプのを、オレが作る」

茶子

「いいなあ。いくらで買うの?」

太一

「オレ達が作ったんだから、タダだよ。部品も皆ほとんどタダ同然に安いし、ハートタイムで作ったんでは

 なくて、アートタイム作品だからね。

 その上、売ろうと思えば高く売れるんだから、遊んで儲けて、この遊びはやめられない。」

茶子

「ウッソー 信じられない! どうしてそんな事出来るの? ハートタイムって何のこと?」

「さっきコンビニで説明して貰ったでしょ?・・・ 聞いてなかったの?」

茶子

「よくわからなかったの。ヘンな話だから」

太一

「よそから来たんじゃわからねえな。

 だからさ、ここには地域通貨があって、1か月60時間働く事をハートタイムと言っている。

 その働いた時間に対してハートマネーが役所からもらえる。

 ハートマネーで村の生産物を買うと、みんな半額以下で買える。

 アートタイムはお金をもらわない時間のこと。フリータイムとも言えるけれど、芸術作品が生れる時間と

 いうことで、アートタイムってカッコつけてる。」

茶子

「それなら、ハートマネーって、普通のお金よりトクするみたいね?」

太一

「いや、損もトクもしないよ。ただ、地産地消には役立つ。

 ハートマネーはこの村でしかつかえないから、全部この村で買い物することになるから」

茶子

「地産地消って、土地のものを土地で消費することでしょう?

 たくさんの種類の地産品が無いとハートマネーが使いきれないじゃない?

 自分ちで作っているものは欲しくないし、そんな場合、どうするの?」

太一

「コンビニは覗いて来たんだろ?

 役場の仕入れががんばっているから、けっこうコンビニの品物もそろっていただろ。

 だからハートマネーが使いきれないなんて、聞いたことないなあ」

宅郎

「かえって足りないときあるけど、その時は普通のお金で買うよ。

 価値は同じだからね。為替の円とドルの関係に似ている。

 地産品目が増えれば増えるほど、ハートマネーは高くなる。」

「株みたいに変動するのね? どうして?」

宅郎

「地産品目が増えるということは、仕事も増えるということだから、はたらく人も多くなるし、村人の魔法

 エネルギーは生産効率が抜群だから、コスト安の上、良品が生まれる。

 作り出された地産品は、安く仕入れられて、それだけ値下げする事も出来るが、儲け幅に組み入れれば、

 ハートマネーは高く変動する仕組みだ。おみこしを大勢でかつげば軽くなるだろ。

 同じりくつさ」

太一

「ここでは必要な分だけ作る。仕入れも必要な分だけ入れる。 無駄をしない。リサイクルをてっていして

 いる。 ゴミ収集車は資源収集車に変身だ。品物も人の労力も『生かしきる』がキーワード。

 品物のリサイクルは知られているけど、人のエネルギーのムダつかいは知られていないよね。」

「人のエネルギーの使い方って・・・あるんですか?」

太一

「おおありさ。オレ達都会へ就職したUターン組だけどさ、今みたいに自分の好きな自動車作る時間なんて

 無かったよ。 毎日ヘトヘトさ。

 バタンキューで寝て、ラッシュの電車に乗って・・ 二度としたくないよ」

宅郎

「都会は広いからな、営業しないとモノが売れないし、モノが売れなければ会社がつぶれるし・・・・

 村はいいよ。IP電話やインターネットで情報が行きわたるから、営業する時間はいらないし、営業マン

 もいらない。 欲しいモノは役場の『すぐ探す課』に探してもらえばいい。

 リサイクル品でも何でもさがしてもらえるよ。

 不必要なものを作る時間ははぶかれるし、その分、アートタイムが増えて、このオリジナル自動車に

 化けたんだ。」

「つまり、魔法のエネルギーが生きたわけね? 私のエネルギーはどう使ったらいいんだろ?」

太一

「ヨメさんになればいいじゃないか。 ここは過疎ストップしちゃって、Iターン(都会者が田舎ぐらしする

 こと)や Uターン(都会へ出た者が故郷へ帰ること)が増えてるよ。

  これからは若者の村を造れるんじゃないかな」

茶子

「うまいなあ・・・だまされたくなっちゃいそう。考えちゃおうかな。」

「となりの家電工房って、テレビやエアコンや洗濯機なんかつくるの?」

太一

「いや、今のところほとんど修理が多い。間にあわないくらいだから、この間、東京で家電のメンテをやって

 いた奴にUターンしてもらったよ。ここでは新品はあまり買う人はいない。

  皆、修理して使っているよ。その分、お金が出ないから、アクセクすることは無い。

 最新のモノはコミステ(コミニティステーションの略)に設備されているから、がまんしているのでは

 なく、モノと大切に付き合っているんだ。 

 コミステには大スクリーンも何もかも、最新のモノがそろっている。

 共同財産だから、皆んなゆとりだよ。電気自動車も走っているしね」

茶子

「となりに鉄工房もつながってあるのよね。」

太一

「皆、共通の工具が使えるから、便利になっている。」

茶子

「ちょうど良く、使える土地が隣にあったのね?」

太一

「いや、この土地は個人のものが多い。村で借り受けて公共の工房にしたんだ。

 自立のために使える金が、政府から交付税として出ているからね。

 最初は村に貸すことをしない人もいたけど、息子の就職口が出来るなら貸すという人が多くなったね。 

  今ではほとんど歓迎されるよ。固定資産税もおまけされるしさ」

茶子

「となりをのぞかしてもらっていい?」

太一

「いいと思うよ。オーイ、東京から美人がきたぞオ~~」

 

 翼つばさ、笑子えみこ、茶子ちゃこら3名、家電工房に向かう。

“村一番の器用な技術者”と自負している洋平が、ドライバー片手に出迎えてくれた。

 

茶子

「こんにちわ、おじゃまします。  わっ! すごいガラクタの山!」

洋平

「ひでえこと言うな。このガラクタが無いと、修理出来ないっすよ。

 使える部品を取りはずして、使えるようにするんだから。

 臓器移植のようなもので・・・このガラクタ山は臓器提供者と言うところかな」

茶子

「ふーん、そうするとあなた達はドクターということね」

洋平

「さしづめ自動車工房のヤツらは整形外科医かな。

 原形をとどめないまでに作り替えてしまうから。オレ達は内科医だ。

 鉄工房のヤツらは何の医者だろう?」

茶子

「ペースメーカーのような医療機器やかしら?」

洋平

「うわさをすれば・・フフ・・ペースメーカーがこっちへ来るよ。」

鉄郎

「この間、頼まれた洗濯機の部品、出来たけど、うまく動くかはめこんでみないと・・・」

洋平

「良かった。助かったよ。この部品だけどうしても見つからなくて・・・・

・・・・動いた! 池の端のばっちゃんがよろこぶよ。この洗濯機、ばあちゃんがヨメ入り道具で持って

 きたんだって、時代物だから、部品が無いんだよ。」

鉄郎

「昔の最先端モダンな洗濯機で、村では誰も持っていなかったと何回も自慢していたよ。

 思い出のものなんだな。」

茶子

「ずいぶん昔のものなのね。見たことないわ。買えばもっと便利な洗濯機があるのにね。」

笑子

「人の心ってフシギよね。

 自分にとって思い出のものが、元気エネルギーや喜びエネルギーを造り出したりするんだから。

 本当に価値あるものって、何も最新式のものばかりではないのね。

 最先端のものだけに高い価値があると思ってたんだけど・・

 ・・どうして、そんなふうに思っていたのかしら?」

茶子

「古いものは汚い、価値がない、買い替えた方が安い・・・と思いこまされてきたみたい・・・

 洗脳かな?」

鉄郎

「買い替えた方が修理するより安いという考え方は一般にある。事実だね。

 便利、安いという面だけで考えたらね。今は別の見方がある。                

 資源は無尽蔵にあるのではなく、大量生産 大量消費は自然をこわすだけでなく、自然と共生しなけれ

 ば、人間の命も危なくなる・・」

茶子

「でも、やっぱり高い修理代はらうよりも、性能アップのきれいな新品を買っちゃうな」

鉄郎

「無理ないね。オレのカアちゃんも同じだったよ。今はシブシブオレの考えについてきているけどね。

 都会では、どうしても資源を大切にする生きは無理だよな。

 お金がなければ生活できないようになっている。

 だからUターンしたんだ。お金をかせぐのに、健康も心もすりへらしている。戦いの競争社会だから・・・

  オレは別の生き方を選んだんだ。

 なんのために生きているのか考えたら、ゆきづまってね・・・

 一度の人生だから・・・もっと別の道があるように思ったんだ。

 ここでの生活は、オレの性質にあっているよ。運が良かったよ」

笑子

「なんかウラやましい気もするけど、畑仕事で日焼けするのもちょっとね。でもなんか考えなくちゃ・・・」

茶子

「ね、となりの“おしゃれ工房”見に行かない? いい考えがぶら下がっているかもよ」

 

 3ギャル、挨拶して去る。

 7月の太陽がギーラギラ・・・・やがてベチャベチャおしゃべりしながら、ジュースをブラブラさせなが

 ら、廃校利用の工房へ。正面入り口は、入るとすぐに土間になっており、 数本の太い竹がニューと天井

 まで伸びていて出迎えてくれた。

 

茶子

「わっ、ビックリ!・・・この村はビックリさせられることばっかりネ」

笑子

「竹やぶが家の中にあるなんて・・・フシギな雰囲気・・・」

 

 さわがしい声を聞いて、中から中年の女性が出てきた。手に作りかけの布地を持っている。

由里(ゆり)さんという“おしゃれ工房”の責任者だ。

 

由里

「いらっしゃい・・・はじめは誰もがびっくりするのよ。

 この竹ね・・・根っこを取っても取っても生えてくるの。

 根負けしてそのままにしたら竹やぶが出来ちゃった。

  でも今では名物になっちゃって、皆んな喜んでるから、私たちも家族のようにしているの」

笑子

「こんにちわ! ずーっといろいろ工房を見せて頂いてきたんです。

 こちらのも見せて頂けますか?」

由里

「どうぞ、どうぞ・・・・今、ちょっと変わった生地でパジャマを作っているんですよ。

 タンスの肥やしになっている着物地でね」

「きもの地でですか?」

由里

「着物と言っても絹地のものでね。絹につつまれて眠るのって、いい夢見そうな感じがしません?

 お姫様になったみたいな・・・」

茶子 

 「じゃ、王子様も出てきてくれるのかしら・・・ナンチャッテ!

 ・・翼ちゃん、ぶたないでよ。ちょっと言っただけよ」

由里

「若い人はいいわね。さ、どうぞ中に入って下さい」

 中はもう一つの隣の教室も打ち抜いて、ふたつの教室分の広さがあり、棚には様々な生地が収まっている。

 プロ用と思われる変わった形のミシンも2台あり、ジーンズなどの厚地の物もリフォーム出来るのかも

 知れない。

「わあっ、すごい量ですね、この棚の生地。まるで生地の問屋さんみたい。

 それに、ずいぶん沢山の人が居るんですね。話し声が聞こえなかったのでわからなかったけど。」

由里

「ここは、この村全体の着るものをひきうけてるの。

 棚の生地は、タンスのこやしになっているものを、整理して出してもらったんですよ。

 虫干しもしないでいると、生地もリサイクルも出来なくなるんです。ぬい目からほころびてしまってね。

 着物地でふとんも作りますよ。絹のふとんでトノサマ気分かな!

 そのとなりの棚の生地は、メーカーで倉庫に眠っているものを、安くゆずってもらったんです。

 ゴミ焼却炉行きのものを、社員の親戚の者が会社から、安くゆずってもらったんですよ。

 新品なんですがね。」

「私の一番上の姉も、デザイナーでメーカーの仕事をしていました。」

由里

「そうですか、洋服はデザインですから、何か新しいデザインでも教えてもらおうかしら?」

「でも今はなにもしていないで家にいます。病気で去年退職したんです・・

 ・・あの人達は何を作っているんですか?」

由里

「ここは注文生産なんですよ。ふとんでもエプロンでもね。 自分で作りたい人は、ここの材料を自由に

 使ってアートタイムで作ります。材料はほとんど寄付されるので間に合います。

 注文品を作る人達は、ハートタイムで仕事をします。

 だけどハートタイムが過ぎても、みんな楽しいから、出来上がるまで夢中になって作っちゃいますね。

 もの作りって、楽しいですものね」

「私の姉さんも、小さい頃から布地で何か作るのが大好きでした。よく、私の洋服も作ってくれたの。

 10歳も年がはなれているけど、いつも一緒にいると楽しかった。

 若くてデザインもみとめられて、一時はマスコミにも名がうれて、大きなメーカーの専属デザイナーに

 なってから、2年ほどして病気になってしまったの。

 あんなに好きだった洋服作りが苦痛になって、肌がガサガサしてきて、ユウレイのようになっちゃっ

 たの。 両親が心配して、会社をやめさせたの。理由はわからないけど・・・

  創作は一人で楽しんだ方がいいみたい・・・・

 組織に入ると、いろいろつながりが出来て、楽しんでいる余裕なんかなくなって、まわりの都合に合わせ

 なければならなくなって・・・楽しんではいけないみたい。

  ここではとても皆楽しそうだけど、組織なんでしょ?」

由里

「組織ではないんじゃないかしら。だって、偉い人は誰もいないのですもの。

 組織って、いろいろな部署がつみ上がっている所でしょ。

 ピラミッド型に命令系統もできていて・・・ここにはそんなものはありませんから、組織ではないんじゃ

 ないかしら。

 組織には営業やら事務経理やら総務やら・・・直接生産しない部署がたくさんあるんでしょ。

 ここは生産する人達だけですべての用事が片ずきますから、そんなに人もいらないんですよ。」

茶子

「なんで組織になると、いろいろな部署がふえるのかしら?」

通子

「地産地消すれば、そんなに部署は必要ありませんよ。」

笑子

「大きくもうけるには、組織にしなければもうけられないんじゃない? 営業マン もたくさん必要だし

 ・・・でも最近は営業マンや店舗や営業所がいらない販売方法があるのよね。

 インターネットを利用してね。経費がかからない分、なんでも安く売られているのよね」

由里

「この村でも、ホームページでの探しものは役場でもしてくれますし、ネット・サーフィンの好きな人が

 いるので、情報はなんでもとれますよ。でも、お姉さんはお気のどくでしたね。

  この村のキーワードは『楽しく美しく』・・・なんですよ。

 それからはずれたら、つまらないでしょ?

 お金が欲しいのは、楽しくて、美しい想いをしたいからでしょ。

 お金をもうけなくても、お金の世話にならないで、直接、楽しくて美しい生き方ができるならば、

 めんどうな金もうけのまわり道しない方が、それこそ、『楽しく美しく』長生き出来ると思うわ。

 お姉さん連れて、又、遊びにいらっしゃい。

 オーガニック(完全有機栽培)の草木染めやハタ織りもしていますよ。」

「ありがとうございます。姉が元気を取り戻せら、どんなに嬉しいか・・・

 この洋服のボタン、すてきですね」

由里

「目が高いですね。これは世界に一つしかないボタンです。ちょっとおおげさですけど、となりのガラス&

 陶芸工房に頼んでつくってもらっているんです。

 ホラ、その棚の引き出しの中に、すてきなボタンがいっぱい並べてありますよ」

「ホント!・・・こんな田舎で、こんなキレイなボタンが出来るなんてウソみたい!

 どうなっちゃっているのかしら?」

由里

「私らは、創りたいものを創っているだけですよ。

 創れる環境を村が用意してくれたから・・・ いや村ではなくて、私達が自分達の税金を有効に使って

 いるだけ。自由に創作活動が出来るようなモノを整えたから良かったんです。

 楽しければ、作品もすてきなものが出来上がりますよ。喜んで使ってもらえるし、それで生活も出来ます

 しね。 一石二鳥で生活できるなんて、申しわけないみたいですよ」

茶子

「ウーム・・・ちょっとしたお金の使い方で、こんなにも人の気持ちに喜びがうまれるなんて・・・

 お金を生かして使うって、こんな風になることなのね。」

由里

「死金(しにがね)の使い方の見本は、沢山見てきましたしね。

 政府のさまざまな福祉施設だって、100億近くかけた施設がほとんど赤字で、わずか数十万円で払い

 下げになったり・・・

 当てに出来ないお客様を皮算用した危険な賭(かけ)ですよね。

 いろいろの失敗例をさんざん勉強できたので、わたしらは地道な道を選らんだんです。その意味で、

 それらの失敗例は役に立っています。

  あやまちはくり返したくないですよね。死活問題ですからね」

笑子

「本当に、当てにならない観光客相手に、税金で観光施設なんてつくってしまって・・・

 客が呼べなかったら生活も行きづまって・・・

 村人は一人去り、二人去り・・・ゴーストタウンになっちゃって、後に立派なホテルの中を、

 風と木の葉がとおり過ぎるだけ・・・すべては風と共に去りぬ・・・ナンチャッテ!」

由里

「本当にね。すでにそうなってしまった村もあるんですよ。

 どうしても観光一辺倒になってしまって、その時だけは建物を建てるので、建築関係は景気にわきます

 けどね。一時的なものですからね。その後の維持費が大変ですよ。だれもそのことなど責任持ちません

 から、先のことは考えないで、決めてしまうんでしょうね。

  不景気ですから、みんな必死なんでしょうけど、ドロで縄をあんでも、くずれるばかりなのにね・・・

 アラッ、説教っぽくなってごめんなさい。 となりの工房で作品造りが体験できますよ。

 ガラス工房と陶芸をやっています。

  あっ 今日はお休みだった!・・・ 最近は大もの造りに挑戦していて、となり村の大きな窯(かま)

 で製作することがあるんです。」

茶子

「大ものって、ガラスや陶器でナニをつくるんですか?」

由里

「ドアにはめこむステンドグラス風のものとか、イスとか、タイルやハキモノも・・・」

「ハキモノ?・・すぐ割れてしまうでしょ?」

由里

「工夫次第で、まさかとおもえるところがオモシロイのよね。 そうそう、おとなりはお休みだけど、一番

 奥の“ナンデモ工房”はやっているわ。一度庭の方へ出てーーーとなりの校舎よ。

 ヘンなオジサンがいますから、行ってごらんなさい。」

茶子

「ヘンなオジサンって、志村ケンに似ているんですか?ハゲてるんですか?」

由里

「行けばわかりますよ。何でも教えてくれますから、記念になるんじゃない?」

茶子

「そうするとエッチって事でもなさそうだし・・・痛いっ・・つねらないでよ、翼ちゃんたら、

 気取っちゃって・・・」

笑子

「おばさん、お仕事中、おじゃましました。奥の工房へ行ってみます。

 いろいろお話、ありがとうございました。」

 

 3ギャル、物音のしないガラス工房&陶芸工房の看板がある教室の前を通って、さらに廊下を奥へすすみ、

 つき当たりの出口から庭へおりる・・・と、向こうから茶色のいぬが、3人めがけて猛ダッシュで走って

 くる。

  男性が何か大声でどなっている。どうやら「噛みつくぞ~~っ」と聞こえる。

 3ギャル、あわてて、もと来た廊下へもどり、戸の内側から様子をうかがっている。

 犬が戸のすぐ下で、尾をふりながら3人に向かって猛烈にほえている。

 

笑子

「この犬、尾っぽ振っている。本当に噛みつくのかしら?」

「可愛いい目してるけど・・・興奮してるみたいだからガブッてやられるかもよ」

茶子

「あっ、向こうから来る人・・ナンデモ工房のヘンなオジサンかな?・・・

 ハゲじゃなくて、ヒゲモジャじゃない?」

「人の出入りする場所で、犬のはなし飼いするなんて、やっぱしヘンなオジさんなのよ、きっと・・・・・

 こっちへ来るわよ・・・」

 

 頭にハチマキ、髪をうしろに束ね、顔一面の髭づら・・一見アイヌの男性風。

 犬の頭をちょっとたたいてから、戸の方へ近づいて来た。

 犬は吠えるのを止め、今度は髭男に飛びかかってじゃれながらついて来る。

 

髭男

「出てきても大丈夫だよ。ちょっとイタズラしただけだよ。この犬は絶対人を噛まない。」

笑子

「よかった。ドキドキしちゃいました。 アノ、おじさんの手、真っ黒ですけど、何していたんですか?」

髭男

「ああ、炭の窯出しをしていたんだよ。暑いね~~裏に冷たい水が湧き出ているけど、飲まないかい?」

 

 3ギャル、感激の面持ち・・・わき水の持つ透明で神秘的な雰囲気が、都会のサワガシイ女性達に、一瞬、

 厳粛な気持ちを呼びおこさせて、髭男の後から無言でついていく。

 校舎の裏から少し外れた所から裏山がせまっており、ヒルなお暗く樹木がうっそうと茂っている。

 木々の根元にはゴツゴツした岩がかさなっており、一部から水がしたたり落ちて小さなたまり場を

 作っている。 その中にゲンゴロウが気持ちよさそうに泳いでいた。

茶子

「わっ! 虫がいる・・・おじさん、この水をのめるんですか?」

髭男

「いや、その横のわき水を飲むんだよ。だけどゲンゴロウがいるのは、水が最高にきれいだという証拠にも

 なるんだ。」

笑子

「このコップ、お借りしていいですか?」

髭男

「うむ、それより笹の葉をまいて、コップ代わりにしてのむと、もっとおいしいと思うがね・・・

 ホラ、クマ笹をこう巻くとコップになるだろう?」

「ああ、笹の葉のかおりもして・・・あまい!・・・水・・」

髭男

「皆、どこから来たんだ?」

茶子

「東京です。おじさんはここの人?」

髭男

「いや、前は鎌倉に住んでいたよ。」

「どうして、ここで炭焼きなんかしてるんですか?」

髭男

「炭焼きばかりではないよ。ナンデモ屋さ。やりたいことをやっているよ。

 ホラ、あそこに見える雪山のようなもの、ナンだと思う?」

「雪国でつくる“かまくら”のようにも見えるけど、大きすぎるし・・・」

髭男

「ここは雪が多いから建物ごと冷蔵庫にしたんだ。

 ナンデモ工房だからね。北海道でも作っている所があるよ。

  真夏でも、あの中はひんやりしている。」

笑子

「ずいぶん何にでもトライするんですね ウラやましい・・・」

「私なんて、何していいのか、したいものがない・・・」

髭男

「君達はクサリにつながれた犬なんだよ。つながれた長さの世界しか知らないから

 やりたい事が見つからない。」

「何にもつながれていません。でもしたいことがないんです。」

髭男

「私はね、トン大(東大)を卒業して厚生省に入り官僚コースを一直線だったんだよ。

 ある時ね。となりに住んでいた老夫婦がつづけて亡くなり、ふっと飼犬のビーチを思い出したんだ。

 老夫婦が可愛がっていた秋田犬だ。

 私が高校の頃はまだ産まれたばかりで、夫婦はよく由比ケ浜の海岸を犬つれてサンポしていたよ。

 ところが散歩途中で、ヨチヨチ歩きの子供にじゃれついて、運悪くコンクリーの道にコロんじゃったんだ。

  その子は意識不明で、その後も具合が悪くて大変だったらしい。

 それから、老夫婦は散歩に出なくなった。 庭もあるんだけど、ビーチはいつも2m足らずのクサリにつ

 ながれていたよ。私の二階の部屋から少し見えるんだ。

  庭から飛び出しては大変だと思ったんだろうね。

 老夫婦が亡くなって、息子夫婦が庭に出ていたので、ビーチの事を聞いてみたんだよ。

 息子は子供の頃、よく遊んだ仲間だから、すぐビーチの小屋の前に案内してくれたよ。

  引っ越してきて1月ほど経ったし、四九日も終わったし、ビーチのクサリも庭の中だけはずそうという

 ことになったんだ。 ビーチもさぞかし大喜びするだろうと思ったんだけど・・・

 クサリをはずしても、ビーチは2m以内のところから動こうとしないんだ。

 少し手前から名前を呼んでもダメだった。

 長い間の習慣で、2mから先は行けないものと思い込んでいるんだ。

 私はその時、何とも言えないショックを感じたんだ。 エリートコースがクサリに思えたんだ。

  それからまわりの大反対を無視して、ここに来たよ。10年位前にね。 

 2mのクサリから飛び出したってわけだ。」

「それで、良かったですか? 後悔はしてないんですか?」

髭男

「一度の人生だからね。人工のものばかりに囲まれているより、大自然に囲まれている方が、のびのびと

 呼吸が出来る。

 君達、南方熊楠(みなみかた くまくす)を知っているかい?」

「100年以上前に、生態系の大切さを説いた学者でしょう?」

髭男

「そう、彼の本をよく読んだよ。

 最近、世界遺産に指定された熊野古道も、彼の自然保護活動のおかげで、丸坊主になるのをまぬがれた

 んだ。 当時の政府は、食物増産の目的もあり、神仏合祀法を決議して、500に近いちんじゅの森や

 神社をこわしていったんだ。 千年近い樹木は今の金に計算すると、1本1000万円近くで取引された

 から、利権がらみでどんどん森は裸にされていった。

  樹が切られると、共生していた植物や動物達がいなくなる。生態系がくずれる。樹の伐採により、

 洪水や土砂くずれ、害虫などの被害がおこる。

 今でこそ自然破壊が災害の原因だと、科学的にも証明されているが、当時の人々にはわからなかった。

 自然破壊と災害の関係を、熊楠がはじめてエコロジーという言葉を使って政府にも説明したんだ。

 100年も前のことだよ。

  洪水や害虫の発生が多くなって、やっと当時の地元民達にも自然破壊の恐ろしさが理解されるように

 なった。 そして自然の重要さを知り、森の樹の伐採反対を政府に訴えるようになったんだ。

  すると政府は、数十年前に決議した神仏合祀法を、全員一致で今度は廃案にしたんだ。」

茶子

「その学者さん、喜んだでしょうね」

髭男

「それよりも、気をつけねばならないことがあるよ。わかるかい?

 

 3ギャル、無言・・・???

 

髭男

「政府は食料増産のために森の樹を切ったり、土地を広げた。

 目先のことに対しては手を打ってくれる。しかし、先のことには責任をもたない。

 つまり、裸で寒いと言えば、着るものは用意してくれる。ダブダブでも小さくてもおかまいい無しにさ。 

 それらを工夫して自分達の体に合ったものにするのは、自分達の責任なんだ。

  100年前の神仏合祀法も、目先の食料増産目的だけで決議し、自然破壊すればどういうことになるか、

 南方熊楠が反対運動を起こしても、目先の国民の胃袋だけを心配したんだ。

 洪水や土砂くずれになり、害虫が増えても、それらは天災であって、政府の責任とは考えなかったんだ。

 自然破壊と災害の因果関係を証明するのは、大変な時間がかかる。

 その間に、どんどん樹は切りたおされる。 災害もたびたび起こるようになる。

 それでやっと土地の住民も、自分達の問題であることがわかり、反対に立ち上がった。

 そして議会も神仏合祀法を廃案にした。

  住民が自分達の身丈に合ったものにしようと行動しなければ、いつまでたっても、ダブダブか、小さくて

 着られないものを、用意されてしまうんだ。

 政府は、住民の体格を全部知るわけないからね。自分達で体格に合ったものを作りだして、着心地のよい

 ものにしなければならない。

  私がここに来て10年になるが、居心地の良い村に作りかえるチャンスがめぐってきたんだよ。

 それも千年に一度くらいしかないチャンスだ」

翼 

「千歳一遇のチャンスなのね」

髭男

「そう・・・本当は、通常の税収でもやればいいんだけどネ!

 政府は各町村が合併して経費を節約するかわりに、10年間、自立するための支援措置をきめたんだ。

 この村は、その自立支度金や税収を、住民のための、基本的に自給自足の循環生産で自己完結する方法に

 当てたんだ。 この工房も、あの冷蔵システムも、みな、その一環だよ。」

茶子

「お髭さん、何か頭に光っているものがあるけど・・・アラッ、見えなくなっちゃった!」

翼 

「白髪じゃないの?」

髭男

「まだ40前だぞ。白髪はないはずだ」

茶子

「もっとおじさんかと思った。そのヒゲはそらないんですか?」

髭男

「いつの間にかのびたな。カガミ見てるヒマないんでね。まだまだこれからが大変なんだ」

茶子

「ここはのんびりしているんじゃないですか? 好きなことしてていいんでしょ?」

髭男

「好きな事ばかりでも面白くない。その中にピリッとした辛さもなければね。大変なことも

 好きなうち・・・でね。これからやりたいのは、昔あった仕事で、今無くなってしまった仕事をほり

 起こす事なんだ。昔の仕事を復活させて、生活できるように仕事も考えたいんだ。

 その職人をさがし出すんだよ。昔からの技術を何とかして残していきたいんだ。

  たとえば、昔は“ノコギリ・目立て”なんて看板が目についたけど、今は目立てなんて言葉も使われない

 だろ?」

翼 

「ノコギリなんか、切れなくなったら捨てるんではないの?ハサミもみんな捨ててたわ」

髭男

「大量消費で使い捨てが当たり前になっているからな。

 これから先もずーっと使い捨てが続けられると思ってるかい?」

茶子

「だって、売っているのですもの、便利なこともあるし・・・」 

翼 

「ちょっと考える事もあるけど、すぐ忘れちゃう・・・」

髭男

「うん、忘れる人多いね。君達、“馬鹿とハサミは使いよう”ってことば、知ってるかい?

 使い方一つで、どうにでもなる・・という意味だろ?

  例えば、切れなくなったハサミからでも、楽しみは引き出せるんだ。

 捨てないで何とか生かせる方法は無いかな?・・・と考える。 クイズを解くように考える。

 案がひらめく。実験してみる。失敗する。経験者に話を聞いてみる。

 意外な秘伝に感動する。廃物のハサミが生まれ変わる。ヤッタぞッ!・・・考え方しだいで、

 子供が砂場で夢中で遊ぶように、なんでも遊べるんだ。

  ゴルフでも野球でも職業となると、つらくなるけど、遊びだと何でも楽しめる。ここの人達は“馬鹿と

 ハサミは使いよう”で、楽しんで別の意味にしちゃった。 税の使い道や合併問題も真剣に考えぬいた

 からね。

  同じ人生なら、楽しく、美しくなければ意味ないからさ。これからやる職人技の掘り起こしだけどね。

 長年つみ重ねられた職人の技術は、国の宝だと思うよ。職人達の技がどれほど人々の生活を支えて来たか、

 いろいろな技に出会うことなど考えると、ワクワクしてくるんだ。

  私の人生で体験出来る事は限られているけれど、体験話を聞くことで、人生を共有出来るんだから、

 すごいじゃないか。命の共有だからね。」

茶子

「やっぱしおじさんの頭、時々光るわよ・・ホラ、今も光ってる アレッ・・・又 消えちゃった」

髭男

「それに機械的に大量生産されたモノ達と、職人達に手作りされたモノとのちがいはハッキリわかる。

 貴重な大自然からの恵みならば、それにふさわしいあつかいで、職人達の心でつくり出していくのが、

 自然に対しての礼儀だと思うよ。人間も自然の仲間なんだからね。」

笑子

「おじさん、でも電気やガスなんか、自給自足できないでしょ?

 このへんは寒いから、暖房なんか昔のように、マキを燃やすの?」

髭男

「いや、そうならないと思うよ。エネルギーは、生活全般に関係する一番大きな問題だ。

 ここで作れるのは、今のところ水車による小規模の水力発電、風力発電、木炭、マキ、メタンガスなどに

 限られているけど、最近、太陽電池も、ペーパーのような、うすくて安いものが出来たの知ってるかい?

 2年後には市場にも出まわるという事だ。太陽光は無限にあるし・・いよいよ循環の21世紀になる。

 リサイクルの大型工場も、コストが合わないということで建てられなかったが、コストに関係なくなれば、

 どんな物もリサイクルできる工業力はある。タイヤをリサイクルして、元の石油を取り出す事も出来る

 時代だからね。

  そうそう、私の友人が伊豆大島で麻の栽培をしている。麻は1年で大き くなるし、食料から衣料から

 燃料まで、何でも作れるんだ。排気ガスの出ないクリーンな燃料まで、麻と言う植物で作れるんだよ。」

茶子

「排気ガスの出ないガソリンなんて夢みたい!」

髭男

「うん、麻は大変な宝物だよ。この村でも栽培したいと思っているよ。灯油やガソリンは高いしね。

 自給自足できれば助かる。

 今は政府の許可が無いと栽培できないけど、実験場としてでも、いろいろやってみたいと思っているよ。

 この村でやっていることが、全国に広がると空気も水もきれいになるね。

 地球は面白い。いろいろな考え方があって、いろいろな方向に動いているけど、お金の性質はとくに

 オモシロイよ。 日本の中の小さなグループなどで、お金に対する考え方がかわって、有効期限もある

 地域通貨が使われはじめているよね。

 今朝のテレビで、中国では景気が加熱して銅貨が不足してしまったそうだ。それでヨーロッパの銅を盛大に

 買いしめた結果、ドイツの銅のリサイクル工場がつぶれたとか、リストラに追い込まれてしまい、社会問題

 になっている。

  お金をつくるために、日常必要な銅製品も品不足になるという・・お金って人間生活に役立つための

 はずが、実際には、人間の首をしめるようになってしまっているね。皮肉だよ。

  しかし、お金が悪ではないんだ。お金は中立だよ。

 それをつかう人間が、金を“悪"にしたり、“善"にしたりしているんだ。

 もっと人間はかしこくなって、物事の本当の姿を見なきゃね。そうしてお金を正しくつかってあげないと、

 悪いよね」

笑子

「お金が中立だなんて、コンビニのお姉さんも言っていたけ ど、まだピンとこないの。 

 たしかに生金いきがね・死金しにがねの使い方ってあると思うけど・・・

 お金が勝手に悪くなったり善くなったりするのではなくて、お金には手足が無いのだから、よい所でよい

 事に使うのも人間だし、悪い場所で悪い事に使うのも人間ってことですか? 

 悪くするのも善くするのも、人間しだいなんですね」

髭男

「そう、お金には罪はない。しかし、貨幣経済では人々の貴重な労力が、気付かないうちに、巨大に浪費され

 ているんだよ。」

茶子

「えっ、魔法エネルギーが浪費されてるんですか?」

髭男

「魔法エネルギー?・・・ふむ、いいたとえだね。正に人間の能力は魔法エネルギーだ。」

「それで、巨大に浪費されているって、どういう事なんですか?」

髭男

「ふむ、大体の組織には本店・支店・工場・現場などがある事は知っているよね。

 例えば道路公団などは、本社で企画や政府との予算のやり取り、総務・庶務・経理・購買などの仕事が

 あり、支店にもそれらのミニ組織があり、工場や現場で製品を生み出し、組み立てたりして、はじめて

 お金を稼ぐ事が出来る。

  一般的な組織でも本店や支店で働くホワイトカラーがいて、営業を行い、実際にお金を稼ぐのに必要な

 製品を作ったり組立て作業をするのは、工場や現場の人達・ブルーカラーと言われる人達だ。

 本店・支店には、現場の人達より多くの人が就業している。

 例えば、本店・支店に100人が仕事をしているとすると、実際にその人達の給料を働き出しているのは、

 現場で働いている10人か20人の人達なんだ。」

茶子

「えっ、現場の10人の人達が、本社の人達を養っていると言う事ですか?

 ・・・そんな!・・・ズルイじゃないですか!?」

翼 

「でも、本店の仕事も大切なんじゃない?

 物を作り出しても、売れなければしょうがないし、セールスマンも居なければね。」

髭男

「いや、ホワイトカラーの仕事の内容をよく考えてみる事だよ。人間の生活に本当に必要なものか、又は

 自然破壊や戦争などに手を貸していないか・・・もし、本当に人の生活に必要な仕事だけになれば、

 義務的に働く時間は1時間位で済むんだ。

 本社のホワイトカラーの人達が、実際に役立つ仕事に力を出せば、今まで、100人を現場の10人で

 養っていた時間を、100人で分担出来るんだから凄いじゃないか。

 必要な職種ももちろんあるけど、情報網や運搬手段が発達している現代に、本社で企画される過度な宣伝は

 必要ないと思えるし、自然破壊を考えれば、物は大切に長く使い、資源を循環させる事が、安心できる

 社会を作っていけるんじゃないかね。

 大量生産大量消費しなければ金が回らず、金が回らなければ生活が出来なくなるという貨幣経済のシステム

 は、大自然に対して犯罪行為と言えなくもない。

  人類は、良い社会を作ろうと思って、一生懸命貨幣経済を発展させてきた。

 しかし、その結果が、人類の生命まで脅かす事が判ったのだから、今までの方法は急いで変える必要が

 あるね。

  犯罪行為と判った以上、賢い選択をした方が良い。それには大きな勇気がいるがね。

 もっと、凄い完全犯罪は、人間の魔法エネルギーを、殺してしまっているという事なんだ。」

笑子

「えっ、殺すって・・・殺人事件まで起こるんですか?」

髭男

「いや、つまり、お金の為に、伸ばせる能力も伸ばせない時があるし、お金の力で、能力のない者でも、

 儲かる職業にはついてしまうってことさ。

 好きこそものの上手なれ!ってことわざがあるだろ。今の時代、好きな職業に就ける奴は本当に少ないよ。

 魔法の能力を殺しているってわけだ。」

笑子

「ふ~~ん、たしかに医は仁術って言うけど、金術の人も目立つみたいだから・・・

 なんかかわいそう・・・」

茶子

「でも、何故、好きでない職業を選ばなければならないの?好きな仕事して、楽しく生きればいいのに。」

翼 

「チャコはノンキやさんね。じゃ、茶子の好きな仕事はなに?おしゃれして、遊ぶ仕事なんてないわよ」

茶子

「私だって、そんな事は考えていないわよ。いつか飽きてしまう事は判っているもの」

「あのね・・・魔法エネルギーには、何か仕掛けがあるんじゃないかしら。

 今、ふっと思ったの。仕掛けを知らないと魔法は使えない。だから魔法なんじゃないかって。」

茶子

「はっきり説明してよ。自慢じゃないけど、私、頭悪いんだから!」

翼 

「ゴメン・・ 急に思いついたんで説明出来ない・・・」

髭男

「その仕掛け、“勇気”と関係あるんじゅないか?」

翼 

「!!・・勇気! 勇気!・・あっ、そんな気がします。」

髭男

「よし、それならば、私が説明できると思う。魔法エネルギーが魔法を発揮するには、勇気が必要なんだ。

 その勇気が無ければ、好きな職業も選べない事にもなる。」

「勇気って?」

髭男

「この場合の勇気は、社会常識をよく考えて、真の価値感を行なう勇気さ。

 その時、人間の魔法エネルギーは魔法を発揮するよ。」

茶子

「お髭さん、もっと分かりやすく話して! どんな魔法が起こるの?」

髭男

「うん、まず、社会常識を考える必要がある。例えば、私の場合、官僚のエリートコースだ。

 お金では一生、豊かな生活も保証される。それは一般的常識になっている。

 しかし、よく考えてみると、人間は肉体だけではなく、心の満足が無ければ、豊かな幸せな一生とは言え

 ないのではないかと、強く思い始める時期がくる。その時、お金は生活の保証はしてくれるが、心の幸せは

 自分で探し、作り出さなければならないんだ。

  魔法エネルギーで、なりふりかまわず働けば、お金持ちにもなれるし、ある程度、満足感も得られる。

 しかし、ある臨界点に達すると物欲にストップがかかり、心の充実を強いられる。

  つまりバランスを求められる。心と肉体(物質)とのバランスだ。

 人間は物心両面で幸せにならないと、必ず病気や事故などでやり直しを迫られる。

 物心両面で幸せのバランスが良いと、病気や事故とは無縁になるだろう・・・・と、私は思うのだ。

 だから、心の充足感が無性に欲しくなって、勇気を出して、ここに来てしまったという事だ。」

茶子

「ふ~~ん、それで充足感なんて、得られたの?」

髭男

「少なくとも、不足・不満は全然ないね。前の生活に帰りたいとも思った事がないから、まっ、充足して

 いるって事かな。」

翼 

「勇気の意味が判りました。エリートコースから離れる事が、“勇気”って事ですね?」

髭男

「そうだとも言えるが、本当は勇気なんかもいらないんだ。本物のデータを集めればね。」

翼 

「本物のデータ?」

髭男

「エリートコースのメリット・デメリットを正確に計算してみるのさ。生活と心の両面から損得勘定をして

 みるのさ。

  ある人にとっては、お金が第一だし、ある人にとっては心の問題が第一の場合もあるから、損得勘定の

 答えは、それぞれ違うけれどね。

 私の場合は、心の満足が欲しかったから、今、ここで生活して居て、お金の問題も解決しているし、

 精神的にも満足している。」      

茶子

「へえ~~っ、お金の事も心配無くなったの?」

翼 

「ここで暮らしていると、お金をあまり欲しくなくなるってことかしら?」

髭男

「そうだね。お金に執着するのは、生活に不安を感じるからだろ?

 ここでは生活の不安はないし、自分の好きな事が出来るし・・・自然は体を健康にしてくれるし・・・

 言う事ないじゃないか。

 お金は印刷物で何もしてくれないよ。力を持っているのは人間さ。お金という仲介なしに、お金の指図は

 受けないで、どんどん直接、人間の持っている魔法エネルギーを使えばいいんだよ。」

翼 

「何か・・・なんでも出来そうな気持ちになるけど・・・でも・・・勇気ってどうしたら出るのかしら?」

茶子

「私の旦那様がエリートコースを辞めるって言ったら、絶対反対すると思う。」 

笑子

「私は・・・どうしたらいいか判らなくなっちゃう・・・」

翼 

「私は・・・きっと話を聞いてから決めるかな?」

髭男

「なるほど、皆、意見が違って面白いね。確かに、新しい環境に入るのは、どんな場合でも勇気がいると

 思うよ。だが今の時代、環境破壊を止めなければ、明るい未来は期待できないどころか、お先真っ暗で、

 気持ちも真っ暗になる。どうにかして、心に希望を持たせたい!と思ったら、都会の真中ではなくて、

 空気も水もきれいな大自然に触れたくなったんだ。その気持ちが、勇気を出させてくれた。

 自然は様々な色の花を咲かせる、実を造り出す・・・あの黒い大地から、どうしてこんな様々なものが

 誕生するのか・・・その奇跡に向かい合うと、都会で感じた不安はまったく消えうせてしまう。

  自然は本当に不思議な力を持っている。

 人間も自然の一員だ。だから黒い大地がさまざまな奇跡を行なえるように、人間も奇跡の能力を持って

 いるんだと、自信も湧いて来るんだ。」

翼 

「自信が持てるようになるって素晴らしい! お金では買えないもの。」

髭男

「そうだよ。お金で何でも手には入るって信じてる人間多いけど、とんでもない錯覚だよ。

 特に“勇気”は簡単には手に入らない。」

翼 

「勇気が手に入らないなら・・・魔法エネルギーの話は、絵に書いたお餅ちで、私達にはダメなの?」

茶子

「そうよね。せっかくのいいお話だって思ったのに?」

髭男

「魔法エネルギーは、コツさえ掴めば、使えば使うほど魔法の力は冴えてくるさ。

 最初の一歩・・・エンジンがかかれば楽なんだよ。

 この村のようにね。キーワードは思いやりかな。大自然に対する思いやり。子孫に対する思いやり、

 自分に対する思いやり、体の細胞に対する思いやり・・・いろいろあるがね。

  その最初の一歩・・真剣に考えれば、知恵は生まれてくるものだよ。

 知恵は魔法エネルギーから出るものだからね。 君達も魔法エネルギーの持ち主なんだから、知恵をしぼれ

 ばいい。真剣に求めれば、必ず魔法・・知恵は出現するよ。私のようにね」

茶子

「魔法の杖で、今、エイッって、顔に自信を持ちたいって思ったんだけど、どうかしら?・・・

 美人になった?」

髭男

「君はいいキャラクターだよ。もし、黒髪だったら嫁さんにしてもいい。 ハハハハ・・冗談だがね。

  とにかく魔法エネルギーに不可能はないということ。

 最初に、もし勇気が無かったら、他の魔法エネルギーの力と合わせるんだ。土も植物も元気をくれるよ。

 それから家族の力とか、友人の力とか、地域の力とか、知恵・勇気が一杯集まれば、必ず何とかなる。

 仲間を作るんだ。ただし『いつも楽しく、美しく』をモットーにした方がいい。

 このモットーに外れそうになったら、自然を見直してみたらいい。自然は教えてくれるよ。」

茶子

「私の友達の親だけど、家庭菜園やってる。」

笑子

「私の母も、プランターで野菜作って料理しているわ。」

翼 

「私の叔父叔母は、土日に田舎の貸し農園に行ってる。定年になったら、田舎暮らしするんだって。」

髭男

「そうやって、少しづづ、土や植物とコミニケーションを取っていくと、魔法エネルギーも働きやすくなる

 のさ。同じ気持ちの人達とつながりも出来て来るし、大地やその仲間を見れば、勇気も出てくるよ。」

翼 

「ここに居て、こんな話を聞いていると、本当にお金って何だろうって、いらないんじゃないかって・・・

 変な気持になる?・・・」

茶子

「私、不器用だから、自給自足するの大変だな。」

笑子

「大丈夫よ。得意なものだけやればいいのよ。『楽しく、美しく』ね。」

茶子

「『楽しく、美しく』・・・いいなあ~~~~(うっとり)」

髭男

「大自然はね。太古の昔から、楽しく美しい所だったと思うよ。

 それを汚したのは私達だ。貨幣経済にカラクリありだね。稀少価値にしなければお金は儲からない。

 人間の能力も、全く実生活では使用しない画一的知識を記憶する為に、重要な青春時代を消費させ、

 貨幣経済に都合の良い教育の歯車に合わない人間はどんどん振り落としていった。

 個性はつぶされていった。貨幣経済に必要な能力のみ高い給料ランクを作り優遇した。

  本来、人間の能力は多種多様無限で、どこかで必ず役立っている。

 それらの能力は全く冷遇され、切り捨てられた。

  つまり、才能を伸ばすのではなく、稀少価値人間を創る為の教育システムで、無限の能力を有限と錯覚

 させ、人間の能力や才能まで、金儲けの材料にした。

 能力や才能が満ち満ちて溢れかえっていれば、金儲けの対称にはならないし、魔法エネルギーが一杯では、

 貨幣経済の根底が成り立たないからね。昔、水がタダであったようにね。

 大自然の循環を大切にすれば、生活に必要なものは、無償で自然が造り出してくれるだろう。そうすれば、

 所有したい!という気持ちが無くなるので、権利や範囲などで争う事も無くなる。

 自分の優位を誇示しようという意識も無くなるので、見栄とも無縁になり、着飾りたい!・・とも思わ

 なくなるだろう。今様のファッション界は存在しなくなるかも知れない。

 貨幣経済の弊害(大量生産大量消費=自然破壊)が、心から理解されれば廃止となり、金融機関は無く

 なるだろう。利潤を追求する事=貨幣経済システムを最大利用する・・も無くなり、必要なだけを生産

 する事になる。したくない事を仕事としてやることも無いさ。

 昔100の人力が必要 だった仕事も、今は、一台の機械がやってくれる。

  人間は創造性を発揮すればいいんだ。

 貢献する・参加する喜びの中で、それぞれ必要な能力・労力も発揮出来る。

 お金のための販売店やサービスは無くなり、奉仕・感謝による喜びが代価と成り、人間生活に必要な流通

 機構は、必ず発達するだろう。

 生鮮食料などは地産地消が一般的となり、その他の生活必需品などは、生産地と消費地を結ぶ連絡網・

 輸送機関は完備され、必要なものは再短距離で手に入るシステムも完成する。

 一般個人宅から、必要な情報は全て入手できる時代に、すでになっているし、そのための手伝いなどを

 役場がやれば良い。 役人は国民に奉仕する下僕だという事だ。」

翼 

「スゴイ!・・・そうなったら凄い!」

髭男

「それをするのは、君達や私だよ。自分達で出来る小さな勇気を集めれば、大きな勇気になる。

 まず、貨幣経済は破壊システムという事に気付く事だよね。」

翼 

「気付いていても、どうにもならない人も居るんじゃない?」

髭男

「それは違うね。貨幣経済の末路を、本当には判っていないんだよ。

 目の前が崖ならば、誰だってそのまま前には進まないだろう。

 本当に落ちるのが判れば人は前には進まないし、魔法エネルギー(知恵)を瞬時に働かせて危険を回避す

 る。どうにもならないと思っている人達は、自分の魔法エネルギーの力にも気付いていないし、崖から

 落ちて大怪我する恐ろしさも、いい加減に考えているんだよ。」

茶子

「私なんかも、崖に落ちちゃうかもよ・・その時は翼ちゃん、笑ちゃん、引っ張り上げてね。」

笑子

「もう少し、軽くなったら、引っ張って上げてもいいけど・・・」

髭男

「ま、とにかく・・・貨幣経済が変化すれば、貯蔵する必要も無くなり、包装は必要最小限にされ、ゴミは

 ほとんど出なくなるさ。すべての不要になった物質は元素に分解され、再生され、無限に循環するように

 なる。そのくらいの工業力はすでに持っているからね。

  それに、お金のシステムがなくなり、必要なものが自由に供給されるようになった時、生きるために起さ

 れた諸々の犯罪は、ほとんど無くなる。

 そのために不必要になる職業は、全ての取締り機関・警察・刑務所・弁護士・・・など、精神不安定の

 ための医者・カウンセラーなども、少数で済むだろうね。」

茶子

「私、お医者さんと結婚したいなと思っているんだけど、ダメ?」

笑子

「お金がいらなくなるんだから、給料は関係なくなるじゃないの。

 私はどんな人にしようかな?~~~~」

翼 

「あの・・お髭さん、話の続きを聞かせてください。」

髭男

「おっ よしよし、続けるよ。

 地球には国境線なんかも引いてないし、お金のシステムがなくなれば、国と国との権力争い(利益争い)

 も必要無くなり、人々はお互いの特産物情報などを、よりスムースに提供し合える機関を発達させるだろ

 う。 又、人間の作った法律・宗教・思想などは、自然界に見習った内容に変わっていき、衰退・消滅する

 ものも多くなるかも知れない。 又、各地の利益代弁者=代議士・政府なども見直され、〔大いなる意識に

 限りなく近い知恵者〕のアドバイスに従って、目的別、テーマ別に、地域社会(グループ?)が出来、

 自分達の能力・労力を駆使して互いに奉仕・貢献し合い、成長進化の最短距離を目指しながら生活出来る

 ようになるだろうと、私は推理しているよ。」

翼 

「それは、お髭さんだけの推測で、外れる事もあるんですか?」 

髭男

「いや、人はそれほどばかではないからね。すでに今、現在、新しい時代の足音はどんどん大きくなって

 いると、感じないかい?

  教育現場でも、あらゆる職業の領域で腐敗があばかれているだろう?

 今までのようなごまかしが出来なくなっている。人々が賢くなり始めたんだ。魔法エネルギーに目覚め

 始めたんだと思う。きっと、教育方法も変わって来るんではないかな。」

茶子

「もう、試験なんかなくなるといいのよね!」

笑子

「そうね、数枚の答案用紙で能力を評価されちゃうのって、ヘンだと思う」

髭男

「教育は一番大切だと思うよ。 基礎的教育として自然法則、地球法則、宇宙法則を、徹底的に理解する

 教育であって欲しいと願うよ。

 それから、能力に合った専門分野ごとに、高度な教育をする。能力に合った教育なら、皆、喜んで勉強

 するよ。楽しみながら毎日を送ることが出来る。

 子供でも大人でも、生活の中で感じたり、感動することが大切だよ。

 何かを感じたり、感動したりすれは、即、行動と結びつくからね。

  今、大人も子供も無気力で、何をしたらいいのか判らないのは、感じたり感動する体験や見聞が無いから

 だ。そしてその行動を継続していくと、やがて、人生の大きなライフワークにもつながっていくだろう。

 充実した人生になるよ。そうすれば、ストレスの無い社会になるから、病気もほとんど発生しないし、

 それにより、病院・製薬会社、薬局・保健婦・その他・・・最小限になる。

 現在の医療費の国家予算30兆円は、昔の話になるだろうね。」

翼 

「本当に、私達、賢くならなければ・・・ね!」

笑子

「凄い、夢みたいな!・・でも、そうなって欲しい!」

髭男

「なるさ! 確実にね!

 必要な機構は、自然発生的に造られていくよ。それが魔法エネルギーの正体だからだよ。

 必要な農場や工場も、使命を自覚した人達や志願者が、自然にその職務に就くようになるだろうし、

 ロボットや人工頭脳も発達するから、肉体労働や単純労働は、彼らが担当するようになるだろう。

 人々はそれらを駆使して、生産計画や管理・企画、アイデアの実現、メンテナンスを行なう。

 生活のための労働は必要無くなれば、人間は本来の在り方に戻って、それぞれ、生まれた時から自覚し、

 設計したとおりに、使命感を持ちながら、才能のおもむくまま、興味持った分野を発展させ、仲間や社会

 全体、その星全体、更にそれらを包活した世界へと、その能力を役立てようとする・・・と思う。

  ちょっと哲学的になるが、人は、一瞬一瞬の変化を生かしきるようになり、それぞれ常に、宇宙の大い

 なる意識の一部としての自覚に促されて、社会全体が、その深く高い意識レベルで統一されていることが

 理解できるようになるかも知れない。」

翼 

「・・・・何か判らないけど、涙が出そう・・・」

笑子

「大丈夫?・・・私は何だか気持ちが沈む・・何故かしらね?」

茶子

「何かおいしいもの食べたら、すぐ直るんじゃ無い?」

髭男

「ちょっとハードだったかな? コミステでランチもあるから、食べにいこうか?」

茶子

「アラッ、ホラホラ、ヒゲさんの頭、又光った! 見えない?」

 

 髭さん、頭に手をやるが、何も感じない。

 みんな、髭さんの頭をジッーとみるが、何も見えない。

 どこかで、小鳥が鳴いている。

  “ソレデイイヨ、ソレデイイヨ、”“いいよ、いいよ、いい”

  “キセキッ、キセッキ”と聞こえる。

 みんなのお腹も“グウ~~っ”と鳴いたので、みんなはコミステのレストランへ自然と引き付けられて、

 足が向いていきました。

 

  神界ではこれらの事を、心配そうに見ている神様がいました。3本神様です。

 あまり熱心にのぞいているので、他の神様達もやじ馬根性でのぞき込みました。

 さらに何事かと、やじ馬神様達が池のまわりをすっかりかこみました。

 その内、のぞいていた神様の一人が、自分の光る髪の毛を数本ぬいてつなぎ、池の中におろしました。

 するととなりの神様が更に自分の髪をぬいてつなぎ、また、そのとなりの神様もつなぎ、次々に神様が

 自分の髪をぬいてはつないでいきました。金色の髪の毛は、どんどん長く、池の下の暗闇を照らしながら

 下りていきました。

 

 人々は上からおりて来る光るものに強くひかれましたが、なかなか地上まで届いてくれません。

 するとそれを見上げていた人達の中から、元気な若者達が肩車をくみはじめました。

 そして多くの男性達が参加して、もっと大きな人間ピラミッドをくみ上げ、そばにいた小さな子と、

 おばあさんを上手に乗せて上の方へ運びあげました。

  金色の糸は、人間ピラミッドの頂上までおりてきました。

 お婆さんがその糸にさわると、まががっていた腰もシャンとして元気が一杯になりました。

 子供はずっーと上まで光っている糸をどんどんよじのぼっていきました。

 他の子供達もどんどん登っていきました。そして、大きな声で下に向かって叫びました。

 「みんな、上がっておいでよ。この糸、細いけど丈夫だよ。登ると気持ちがいいよ。ワクワクするよ。」

 それを聞いてピラミッドの人達は、まず、病気の人をしっかりと運びあげました。

 糸にさわるやいなや、病気は消えて元気になりました。それから子供達をどんどんあげました。

 子供や病人が元気になると、金色の糸は喜ぶように少しづつ太く長くなっていきました。

 そしてとうとう地面に着くまでになりました。人間ピラミッドはもう必要ありませんでした。

  人々は喜んで金色の糸にさわりました。

 すると更に糸は太くなり、輝き出し、あたり一面に光が一杯になりました。

 上では3本神がこの様子を見て、ホロっとひとしずくうれし涙を流しました。

 それを見ていた上司神が、自分の頭から3本の光の髪を抜き、そっと一吹きしました。

 髪はヒラヒラヒーラと3本神の頭に着地しました。

 隣にいたやじ馬神が気付いてニッコリしました。 彼は3本神の親友なのですが、3本神の頭に金色の髪が

 1本も無くなっていたので、とても悲しんでいたのです。

 なぜなら、神界に住むには 最低1本の金色髪をもっていなければ、神界から追い出されるからです。

 そして1本の金色髪が生えるには3千年位かかるのでした。

 上司神は、他の神々にも光でつないだ分の金色の髪を贈りました。その髪は、自分達の髪よりももっと

 キラキラした美しいものでしたので、神々達は思わず歓声をあげました。

上司神は言いました。

「昔、われらが下ろした光の髪は、人間の自分さえ良ければ、他の人はどうなってもいい・・と言う

 自己中心のエネルギーによって、切れてしまった。人間が考え出した資本主義は、欲望に突き動かされた、

 大自然にも、仲間同士にも、思いやりの無いシステムだ。

 愛が無ければ、やがて崩壊するという法則と掟が大自然には存在する。

 如何なる者も、決してさ逆らう事の出来ない、法則と掟だ。

 だから人間の世界は闇になり、さまざまな苦しみが一杯になった。

 けれども、その体験は決してムダではなかったのだ。皆りっぱにその苦しみから学び、成長した。

 このたびおろした光にたいして、人々はまず弱い者を先に金の糸につかまらせた。けっして弱い者を

 ふみ台にしなかった。弱い者は感謝して、自分でも出来ることを一生懸命やった。決して甘えなかった。

 それらはみんな一番大切なことだったのだ。

 その気持ちになったとき、光(知恵・幸福)はいっそう強く人間世界を照らす仕掛けになっておったの

 じゃ。われらの世界とて同じこと、3本神だけの責任にしないで、他の神々もよくぞ光をつないでくれた。

 それにより人間界も神界も、立派に役目を果たしたことになる。

 しかし“勝ってカブトの緒をしめよ”とことわざにもある。油断は大敵であるぞ」・・・と、

 上司神はちょっと古すぎる言葉を使って部下をいましめ、気持ちよさそうに散歩をおつづけになりました。

神界には優しいかおりが一面にただよい、ハスの花が気持ちよさそうにゆらゆらと風にそよいでいました。

オシマイ

 

 

人間にとって、一番大切なものは何だろう?

 

①財産(衣食住・金)? 

②名誉(心の満足)? 

③健康(肉体の自由)?

 

 ①②③は、人間には全て程ほどに必要であり、この3つの条件がバランスされれば、人間は心身共の元気に満たされる。

 ①②③の何か1つが重要視されたり、偏っても、バランスは崩れ、元気は去って行く。

交歓村は村民の全てが、理想的な心身共に元気を実証している村である。

そのために、①②③のバランスを保つ《楽しく・美しく》をモットーにしている。

では、《楽しく・美しい》毎日を創り出すために、どんな土台創りが必要であったか、交歓村が創られるまでのプロセスを辿ってみよう。

 

** 絶望的な現状を知ること **

 十数年前の交歓村は、絶望村であった。

お決まりの過疎化が始まり、若い者達は村から去り、人口はどんどん減って行き、残された村民はなす術もなく無気力に陥ったまま、責任を政府や役場に求めていた。

しかし、行政側も財政難で、完全に当てにならないことを知った時、村民達は真剣に考えたのだ・・・このまま他人任せ(行政任せ)にしていると、救いは無く、どんどん死の縁に近づいてしまうと・・・

人間は、絶体絶命に追い込まれた時、自分の持っている火事場の馬鹿力《無尽蔵の力(魔法エネルギー)》を発揮する。 絶望的な現状をしっかり直視する事によって、人間は「何とかしなければ!」と、知恵を働かせるようになる。

だから、絶望的な現状を、しっかりと認識する事が、まず、必要な事となる。

責任を他人(行政)に任せたり、楽観視するのは、現状をしっかり直視していないからで、

やがて【村の死】を迎える事になる。

この認識を村民全体が自覚し、現状を脱出するために、各自の持つ火事場の馬鹿力《無尽蔵の力(魔法エネルギー)》を活用するための、具体的な方法を、さっそく魔法エネルギーを働かせて、考えだせば、必ず絶望村が交歓村になって行く。

魔法エネルギーは、ただで無尽蔵に出てくる。

ただし、上記①②③のバランスを崩すと、十分に働かないばかりか、とんでもない暴走・不幸なエネルギーになってしまう。

少数村民の自己中心的な欲望のエネルギーが頑固に働けば、魔法エネルギーは《楽しく・美しく》働く事は無い。 そのような一部村民の心を、批判、非難する事なく、まず、思いやりのエネルギーに変えて行くために、皆の魔法エネルギーで、思いやりをもって、賢く包んでいく事が、最初の仕事となり、成功の鍵を入手する事となる。

 

  絶望村になった原因は?

 各自の生活を心身共に快適に過ごすには、それぞれ各自の好みがある。

各自の生活に合わせた、繊細な行政を求めるのは、最初から出来ない相談なのだが、私達はその不可能さを認識せず、夢見て、行政(議員・役場)に不可能を求め続けてしまった。

 その結果、一部の人間達が、自分達の生活を快適にするためにのみ、行政を利用する事も起き始め、絶望村作りを加速させた。

原因が判れば、それらを改善することにより、不幸は止められる。

一部の自己中心的利用をストップさせ、皆で行政に使われる皆の税金の使い道を考えれば良い。

村民全員が行政に参加し、得意分野で行動すると良い。

公務員や議員は、村民が選んだ、村民のためのお手伝いさんである事を、村民自身が自覚し、そのように働いてもらう事を、はっきりと要望することで、公務員や議員も、自らの立場、仕事の重要性を深く理解し、働いてくれるだろう。

 皆、真剣に、一生懸命、必死に生きている。立場が変われば、一部の自己中心的な人達と同じ事を、あなたも皆んなもするだろう。

だから、ここでも決して、非難・批判はしないで、自己中心のエネルギーを、思いやりのエネルギーに変えるために、魔法エネルギーで知恵を働かせよう。

魔法エネルギーはどんなエネルギーにも変化する。

大切に、賢く、どんな相手の気持・立場も理解して、愛を心がけて、

素晴らしいエネルギーに変えていこう。

 

  行政に参加するとは?

 行政とは何か?・・・単純に表現すれば、よりよく、税金の使い道を考え、分配する機関と言える。

国単位の税金の分配など考えると、よりよく分配するにはどうしたら良いか、頭が痛くなるが、家計簿に置き換えてみると、案外簡単に理解が進む。

 まず、村の税金の収支を細かく知る事で、行政に参加する一歩が始まる。

不要不急の支出、優先されるべき支出、自給自足できるもの等、順位を決めて、村全体の事を当てはめて行くと、かなり見直しが出来る。その際、自然との共存共栄(循環)、村全体の自立を促す事を、最も優先した

税金の使い道を決めたら良い。

素晴らしい特技・能力を持つ村民の魔法エネルギーも掘り起こし、天然資源と共に、大いに活かすと良い。 活用の場が出来るれば、死蔵していた能力は生き生きと活性化するだろう。

 優先されるべき支出として、まず、介護などの福祉関係を考える人も多いと思うが、出来れば福祉に頼らない体力、知力作りを、並行して最優先する支出を手当てすると、結果的に、介護費用の支出は激減すると思われるので、〈死に金〉を〈生き金〉にする使い方を徹底することが、交歓村作りの早道となるだろう。

国の医療費も早晩、半分以下となり、それらの予算は、更に高度な医療の研究や設備に変換できることだろう。

  村の家計簿

 それぞれの村によって、家計簿の支出は同じではない。

海に近い、山が多い、交通の便、気候の違いなど、立地条件によって、産物や工業・商業など異なる。

家計簿の内容も、環境に合わせたものにすれば良い。

 家計簿を健全な内容にする一番の注意点は、地道で確実な方法のために、税金を使う事。

村民全体が、心身共に健康になるために使う事を最優先にする。

心(充実感)身(衣食住)が適度に満たされていれば、人間は健康でいられる。

 日本において、衣食住は大体満たされているが、心(充実感)は皆無が現状で、このバランスの崩れが、

さまざまな犯罪、病気、事故、いじめを作り出し、自殺も多い。心の充実感は、実は、簡単に芽生えさせる

事が出来る。

村の仕事に参加し、人々の生活に貢献していることを、自身(魂)が自覚すれば、心に喜びがよみがえる。 体(肉体)は、単に衣食住の完備だけでは、健康でいられない。

体は適度に動かし、使わないと退化して行くのだ。使わない機能は、どんどん衰えて行くのが自然のシステムだから。 ところが体は、心の充足感がないと、生き生きとは動かない。

又、心も、体の手先の体験から得る知恵・知識や、良い汗をかく事によって、充足感を持つ事が出来、お互いが依存しあう相互効果の関係になっている。

 だから、税金は出来るだけ、村民が自給自足して動ける場、参加できる場や、能力を発揮できる道具、設備に使われると、魔法エネルギーも最大に発揮される。

他を当てにした税金の使い方、皮算用(例・観光客等の誘致など)は、予算の余裕のある時にすると良い。

 以上の条件に当てはめながら村の支出(家計簿)を整えて行くと、次第に交歓村は出来上がる。

 簡単だが、交歓村実現のためのステップを示してみた。

 後は、現状をぜひ変えて行きたい!と、魔法エネルギーを働かせるか、否かだけで、結果が決まるだろう。

ここで、何にも増して、厳重に監視しなければならない事は、自分達自身の心の在り方である。

家計簿支出の優先順位の決め方次第で、交歓村の出来不出来が決まる。

優先順位を決める時、公明正大、私利私欲の偏りのない心で、村の成長のバランスを配慮しながら決めると、交歓村の実現は早くなり、その恩恵は確実に受け取る事が出来る。

交歓村を作れるか作れないかは、単に村民自身の決心次第である。

夕張市の破綻も、市町村民自身が招いたものである。

幸せや不幸を作り出す力を、自分達自身が持っている事を、真に自覚しなければ、いつまでも破綻の連鎖は

続くだろう。

選挙の時、あなたはどんな基準で、候補者を選んでいたか、考えてみるといい。

夕張市の市会議員は、夕張市民が選び、税金の使い道全てを彼らに任せたのも、住民自身である事を思い出せば、議員を責める事は出来ないはずである。

教訓を生かして、これから交歓村のような夕張市が作られる事を祈りたい。

もっと細かく、交歓村実現の指導をしてもらいたいと、当てにされるのはお断りする。

なぜなら、やる気になれば、あなたの魔法エネルギーは働きだすが、棚ぼた式に、いつまでも人に頼っていては、貴重なあなたのエネルギーが働かないからだ。

 欲望に偏らず、自分を信頼し、バランスある生活を実現させる希望を持ち、他の人々と力を合わせれば、乗り切れない困難は一つもない。

人間は万物の王であり、その能力も、万物を幸せにする責任も、兼ね備えているのだから。

 

平成19年1月1日

 交歓村実現を進める会